事業承継・M&Aお役立ちコラム
【2027年施行】ミニマムタックス税制改正でM&Aへの影響はある?確認事項を解説
ミニマムタックス税制は、2027年分以後の所得税から見直されます。M&Aで自社株式を売却するオーナー経営者に向けて、追加納税が生じる可能性や売却前の確認事項を解説します。

ミニマムタックス税制は、高額所得者に一定以上の所得税負担を求める制度です。令和8年度税制改正により、2027年分以後の所得税から、特別控除額が3億3,000万円から1億6,500万円へ引き下げられ、適用税率は22.5%から30%へ引き上げられます。
この見直しにより、M&Aで自社株式を売却するオーナー経営者は、追加納税が生じ、税引後の手取り額が想定を下回る可能性があります。特に、所得の大部分を株式譲渡所得が占める場合は注意が必要です。
本記事では、ミニマムタックス税制改正の内容とM&Aへの影響、売却前に確認しておきたいポイントを解説します。

監修者:白田 祐一
仙台国税局、東京国税局において、国税調査官として税務署所管法人と調査部所管法人及び、国際税務専門官部門(法人税・源泉所得税)に15年間従事、税務調査(法人税・消費税・源泉所得税等)を行う。
退職後、税理士法人トーマツ東京事務所にてM&A担当部署を経験、一般事業会社の経理、財務担当を経験。
税理士資格取得後、法人税申告指導や国際税務コンサルティングなど幅広い支援を提供すべく、2014年2月1日に白田祐一税理士事務所を開設、現在に至る。
ミニマムタックス税制改正の要点

2027年分以後の所得税から、ミニマムタックス税制は大きく見直されます。改正では、特別控除額と適用税率が変更されるため、これまで制度の対象にならなかったオーナー経営者にも影響が及ぶ可能性があります。
まずは、改正内容のポイントを3つに分けて解説します。
2027年分以後の所得税から適用
新しい基準は、2027年分以後の所得税から適用されます。2026年分までの所得には現行制度が適用されるため、どの年の所得として計上されるかが重要です。
M&Aでは基本合意から最終契約、クロージングまで一定の期間を要するケースが少なくありません。そのため、契約日やクロージング日、株式の引渡日などを踏まえ、株式譲渡所得がどの年分の所得となるかを確認する必要があります。株式譲渡所得の収入時期は、原則として株式の引渡日ですが、一定の場合には契約の効力発生日を基準として申告することも認められています。
売却のタイミングによっては、改正前と改正後のどちらの制度が適用されるかが変わる可能性があります。M&Aのスケジュールを検討する際は、税理士などの専門家に相談しながら所得計上時期を確認しておくと安心です。
特別控除額は3億3,000万円から1億6,500万円へ下がる
改正後は、追加納税を計算する際の特別控除額が3億3,000万円から1億6,500万円へ引き下げられます。現行制度では、基準所得金額から3億3,000万円を差し引いた金額をもとに最低負担額を算出しますが、改正後は控除額が半分になります。
控除額の引き下げによって、従来より低い所得水準でも制度の対象となる可能性があります。もっとも、基準所得金額が1億6,500万円を超えた場合でも、自動的に追加納税が発生するわけではありません。通常の方法で計算した所得税額との比較によって最終的な税額が決まるため、個別の試算が重要です。
税率は22.5%から30%へ上がる
ミニマムタックスの計算に用いる税率も、現行の22.5%から30%へ引き上げられます。特別控除額の引き下げと同時に税率も上昇するため、追加納税が新たに発生したり、その金額が増加したりする可能性があります。
M&Aで発生する自社株式の譲渡所得には、所得税15%に加え、2027年分以後は防衛特別所得税及び復興特別所得税が課され、国税の合計税率は原則15.315%となります。別途、住民税5%が課されます。そのため、所得に占める株式譲渡所得の割合が高いオーナー経営者は、改正後、追加納税の対象となる可能性が高まります。
特に、自社株式の売却によって数億円規模の譲渡所得が見込まれる場合は、売却前の段階で税負担や手取り額を試算しておくことが重要です。
ミニマムタックス税制改正がM&Aの税引後手取り額に与える影響

M&Aで会社を売却する際は、譲渡価格だけではなく、税引後の手取り額まで確認することが重要です。2027年分以後のミニマムタックス税制では、追加納税が発生するケースが増える可能性があります。
ここでは、自社株式の売却がどのような影響を受けるのか、確認しておきたいポイントを解説します。
自社株式の譲渡所得が大きいケース
M&Aでは、譲受企業へ自社株式を売却することで、オーナー経営者に株式譲渡所得が発生する場合があります。株式譲渡所得は給与所得とは異なり、原則として申告分離課税の対象となるため、所得の構成によってはミニマムタックスの影響を受ける可能性があります。
特に、自社株式の評価額が大きく、譲渡所得の大半を株式譲渡所得が占めるケースでは注意が必要です。追加納税の有無は、株式譲渡所得だけで決まるものではなく、給与所得や事業所得などの総合課税所得、給与所得や事業所得などの総合課税所得に加え、確定申告不要制度を適用できる上場株式等の配当所得や譲渡所得等も含めて判定します。
M&Aでは企業価値に目が向きやすいものの、売却価格だけでなく、実際の課税対象となる株式譲渡所得を確認する必要があります。売却前の段階で取得費や必要経費を整理し、税負担まで含めて試算することが重要になります。
譲渡価格ではなく税引後手取り額で比較する
M&Aでは、譲受企業から提示された譲渡価格が、そのままオーナー経営者の手取り額になるわけではありません。株式の取得費や譲渡費用に加え、所得税や住民税、必要に応じてミニマムタックスによる追加納税も考慮する必要があります。
例えば、自社株式の譲渡所得が10億円規模となるケースでは、2027年分以後の制度では追加納税が発生する可能性があります。税負担が増えれば、改正前後で手取り額に数千万円規模の差が生じる場合もあるため、譲渡価格だけで有利・不利を判断することは適切ではありません。
M&Aでは、譲渡価格の交渉だけではなく、税引後の資金計画も重要な検討事項です。事前に税額を試算しておくことで、売却後の資産運用や次の事業への投資計画も立てやすくなります。
改正の影響を受けやすい3つのケース

ミニマムタックスの適用可否は、売却価格だけで決まるものではありません。株式の取得費や他の所得、売却時期など複数の要素が影響します。
M&Aを検討するオーナー経営者は、次のようなケースに当てはまらないか事前に確認しておくことが大切です。
1.自社株式の譲渡所得が大きくなるケース
M&Aでは、売却価格ではなく株式譲渡所得の金額が重要になります。株式譲渡所得は、株式の売却代金から取得費と譲渡に要した費用を差し引いて計算します。
創業時に取得した株式や長年保有してきた自社株式は、取得費が低いケースも少なくありません。その場合は譲渡所得が大きくなり、ミニマムタックスの判定に影響する可能性があります。
令和8年度税制改正では、特別控除額の引き下げと税率の引き上げが予定されています。そのため、これまで対象外だった譲渡所得でも追加納税が発生する可能性があります。M&Aを具体的に検討する段階では、自社株式の取得費や概算の譲渡所得を確認しておくことが重要です。
2.役員退職金や配当などが同じ年に発生するケース
M&Aを実行した年には、自社株式の譲渡所得に加えて、役員退職金や配当による所得が生じる場合があります。また、同じ年に上場株式や不動産などを売却し、別の譲渡所得が発生するケースもあるでしょう。
ミニマムタックスでは、申告不要制度を適用できる上場株式等の配当所得や譲渡所得も、基準所得金額へ含めて判定します。特定口座で「源泉徴収あり」を選択している場合でも、制度の判定対象となる点は理解しておきたいポイントです。
個々の所得だけでは影響が小さく見えても、複数の所得を合算すると制度の対象になる場合があります。M&Aのスキームを検討する際は、譲渡所得だけではなく、同一年に発生する所得全体を整理して試算することが重要です。
3.売却時期が2026年中か2027年以後で分かれるケース
ミニマムタックス税制の見直しは、2027年分以後の所得税から適用されます。そのため、2026年中に譲渡所得が発生する場合と、2027年以後になる場合では、適用される制度が異なる可能性があります。
M&Aでは、基本合意から最終契約、クロージングまで数か月以上かかることも珍しくありません。契約時期だけではなく、所得が発生するタイミングまで含めて確認しておくことが大切です。
もっとも、税負担だけを理由に売却時期を決めることは望ましくありません。譲受企業との交渉状況や企業価値、従業員への影響なども踏まえながら、税務面を含めた総合的な判断が求められます。
ミニマムタックス税制改正前後の追加納税の計算イメージ

制度改正によって、追加納税がどの程度変わるのか気になる経営者も多いでしょう。ただし、実際の税額は株式譲渡所得だけでは決まりません。
他の所得や控除、申告内容などによって結果は異なります。ここでは制度の仕組みを理解するため、シンプルな条件で改正前後の違いを確認します。
改正前後の計算式の違い
ミニマムタックスでは、通常の方法で計算した所得税額と、制度に基づく最低負担額を比較し、その差額が追加納税になります。
現行制度では、基準所得金額から3億3,000万円を差し引き、その金額に22.5%を乗じて最低負担額を計算します。一方、2027年分以後は特別控除額が1億6,500万円へ引き下げられ、税率も30%へ引き上げられる予定です。
控除額と税率の両方が見直されるため、高額な株式譲渡所得が発生するM&Aでは、改正前より追加納税が生じやすくなります。ただし、最終的な税額は給与所得や事業所得などの総合課税所得、各種控除も踏まえて決まるため、個別の試算が欠かせません。
M&Aで株式譲渡所得が発生した場合
例として、M&Aによって株式譲渡所得が5億円発生し、他の所得、所得控除、税額控除、申告不要所得、復興特別所得税、防衛特別所得税及び住民税を考慮しないケースを想定します。 実際の計算では、他の所得や税額控除、申告不要制度を適用した所得に係る源泉徴収税額なども考慮するため、以下は制度を単純化した概算です。
通常の所得税額を15%で計算すると、税額は7,500万円です。改正前の最低負担額は3,825万円となるため、追加納税は生じません。
一方、改正後の最低負担額は1億50万円です。通常の所得税額との差額となる2,550万円が、追加納税の目安になります。
M&Aでは、譲渡価格だけでなく、税負担を反映した手取り額の確認が重要です。売却条件を比較する際は、税額も含めて資金計画を立てる必要があります。
改正の背景にある「1億円の壁」と税負担の公平性

ミニマムタックス税制の見直しは、単に税率を引き上げることが目的ではありません。背景には「1億円の壁」と呼ばれる税負担の課題があります。制度改正の目的を理解すると、なぜM&Aによる株式譲渡所得も影響を受ける可能性があるのかを把握しやすくなります。
1億円の壁を是正する目的がある
「1億円の壁」とは、所得が一定額を超えると所得税の実質負担率が低下する傾向を指します。給与所得などには累進課税が適用される一方で、株式譲渡所得や配当所得には申告分離課税が適用されるためです。
オーナー経営者がM&Aによって自社株式を売却すると、多額の株式譲渡所得を得るケースがあります。その結果、所得全体に占める金融所得の割合が高くなり、実効税率が低下する場合があります。
ミニマムタックスは、このような所得構成による税負担の差を一定程度調整し、非常に高い所得を得る人にも一定水準の所得税負担を求めることを目的としています。
金融所得や譲渡所得に対する課税バランスが見直されている
今回の制度改正では、株式譲渡所得や配当所得など、分離課税の対象となる金融所得の割合が高い場合を想定して制度の見直しが進められました。特別控除額の引き下げと税率の引き上げは、その考え方を反映した内容です。
M&Aによる自社株式の譲渡所得も、所得の状況によってはミニマムタックスの判定対象になります。そのため、会社売却を予定している経営者は、企業価値だけではなく、売却後の税負担まで含めて資金計画を立てることが重要です。
税制改正そのものを避けることはできません。しかし、売却時期や取引スケジュール、税額シミュレーションを事前に確認しておくことで、想定外の資金不足を防ぎやすくなります。
会社売却前に整理すべき3つの事項

M&Aを考えるときは、売却価格だけで判断せず、譲受企業の候補や譲渡条件、手取り額まで合わせて検討する必要があります。
特に、ミニマムタックス税制の改正後は、売却時期や所得の状況によって手取り額が変わる可能性があります。ここでは、会社を譲渡する前に整理しておきたい3つの確認事項を紹介します。
想定売却額と譲渡所得を把握する
まずは、自社の想定売却額を把握しましょう。そのうえで、株式の取得費や譲渡に必要となる費用を整理し、おおよその株式譲渡所得を試算することが大切です。
M&Aでは、譲渡価格が高くても取得費によって譲渡所得は変わります。創業時から保有している株式など、取得費が低い場合は、譲渡価格に近い金額が譲渡所得となるケースもあります。
また、会社売却後に手元へ残る資金は、譲渡価格だけでは判断できません。所得税や住民税に加え、ミニマムタックスの影響も考慮した手取り額を把握することで、売却後の資産運用や新たな事業への投資計画も立てやすくなります。
2026年中と2027年以後の売却時期を比べる
2027年分以後の所得税からは、ミニマムタックス税制の改正内容が適用されます。そのため、譲渡所得がどの年に計上されるかによって、税負担が変わる可能性があります。
一方で、税制だけを理由に売却時期を決めることは適切ではありません。M&Aでは、譲受企業との条件交渉やデューデリジェンス、最終契約など、取引全体の進行状況も考慮する必要があります。
売却を急いだ結果、企業価値を十分に評価してもらえなかったり、希望する条件で譲渡できなかったりしては本末転倒です。税負担と譲渡条件の両方を比較しながら、最適なタイミングを検討しましょう。
税理士など専門家のアドバイスを受ける
ミニマムタックスの判定には、株式譲渡所得だけでなく、給与所得や配当所得なども関係します。申告方法によって確認すべき範囲が変わるため、経営者が一人で正確な税額を判断するのは難しい場合があります。
税理士へ試算を依頼すると、追加納税の有無や手取り額を把握しやすくなります。想定売却額や株式の取得費、同じ年に発生する所得を共有すれば、より具体的な確認が可能です。
M&Aの進め方はアドバイザーと整理し、税務上の判断は税理士へ確認できる体制を整えておきましょう。両者が連携すると、譲渡条件と手取り額を踏まえて売却計画を検討できます。
M&Aアドバイザーに相談できること・税理士に確認したいこと

M&Aでは、相談先ごとの役割を分けることが大切です。M&Aアドバイザーは売却実務を支援し、税理士は税務判断や申告を担います。両者の役割を理解すると、譲渡条件と手取り額を確認しながら、取引を進めやすくなります。
M&Aアドバイザーに相談できること
M&Aアドバイザーには、企業価値の目安や譲受企業の候補、売却スケジュールなどを相談できます。条件交渉の進め方や必要書類の整理、基本合意から最終契約までの実務支援も相談対象です。
一方、M&Aアドバイザーは税務判断を行う立場ではありません。ミニマムタックスの適用可否や具体的な税額は、税理士へ確認する必要があります。
売却条件を検討する段階から税務面も整理すると、譲渡価格だけでなく、手取り額を踏まえた判断がしやすくなります。
税理士への相談事項と専門家同士の連携
税理士には、ミニマムタックスの適用可否や追加納税、株式譲渡所得の計算方法を確認します。想定売却額や株式の取得費、同じ年に発生する所得を共有すると、具体的な試算を行いやすくなります。
試算結果をM&Aアドバイザーと共有すれば、価格や売却スケジュールを見直す判断材料にもなります。税負担を踏まえて条件交渉を進めることで、売却後の資金計画も立てやすくなるでしょう。
M&Aの条件確認と税務判断を連携させることが、想定外の納税負担を防ぐための重要なポイントです。
まとめ
2027年分以後は、ミニマムタックスの特別控除額が引き下げられ、適用税率が引き上げられます。自社株式の譲渡所得が大きいオーナー経営者は、改正により追加納税が生じる可能性があるため、譲渡価格だけでなく、手取り額を事前に試算することが重要です。
実際の適用可否は、株式譲渡所得だけでなく、同じ年に生じる他の所得や税額控除などによっても変わります。M&Aを進める際は、税理士とM&Aアドバイザーが連携できる体制を整え、譲渡条件、実行時期、売却後の資金計画を総合的に検討しましょう。
※この記事は2026年7月現在の情報を基に作成しています。
今後変更されることもありますので、ご留意ください。


