「給与から税金や社会保険料が引かれて、思ったより手取りが少ない」と感じているサラリーマン(会社員)の方は多いのではないでしょうか。「税金は給与から自動的に引かれるものだから仕方ない」と諦めてしまうのは、まだ早いかもしれません。
実は、サラリーマンでも実践できる節税対策は意外に多く存在します。年末調整や確定申告の見直しで、納税額が変わり手取りが増える可能性があります。
本記事では、税金の知識に自信がなくても始められる、具体的な節税対策をわかりやすく解説します。
目次
会社員として働く場合、毎月の給与から所得税や住民税、社会保険料といったさまざまな税金や保険料が天引きされます。これらがどのように決まり、どこに使われているのかを理解することで、自身の手取り額の構造を把握できるようになります。まずは、給与から引かれるお金の仕組みを整理しておきましょう。
所得税は、個人の1年間(1月1日~12月31日)の所得に対して課される税金です。日本の所得税は「累進課税制度」を採用しており、所得が高くなるほど、より高い税率が適用される仕組みになっています。
所得税額は、以下の計算式で算出されます。
住民税は、住んでいる都道府県や市区町村に納める地方税です。教育、福祉、防災など、地域の行政サービスを支えるために使われます。前年の1年間の所得をもとに税額が計算され、翌年の6月から1年間にわたって毎月の給与から天引きされるのが一般的です。
住民税は、所得に応じて負担額が変わる「所得割」と、所得にかかわらず一定額を負担する「均等割」の2つで構成されています。
所得割の税率は、都道府県民税4%、市区町村民税6%の合計10%です。ただし、地域によっては条例で多少異なることがあります。
均等割の金額(年額)は、自治体によって異なりますが、基本的に都道府県民税1,000円、市区町村民税3,000円の合計4,000円です。2024年からは、森林整備などに必要な地方財源を安定的に確保するという観点から、森林環境税が1人あたり年額1,000円、加算されています。
給与から天引きされるものには、税金のほかに社会保険料があります。健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料(40歳以上)、雇用保険料などが含まれます。
社会保険料は、標準報酬月額(毎月の給与を一定の範囲で区切ったもの)に基づいて決まるため、直接的に金額を減らすことは困難です。しかし、支払った社会保険料の全額は「社会保険料控除」として所得から差し引くことができます。
つまり、社会保険料を支払っていることで、社会保険料控除が適用され、結果として所得税や住民税の軽減につながります。
サラリーマンが節税するために最も基本となるのが、所得控除や税額控除などの制度を正しく活用することです。年末調整や確定申告での控除申請は、所得税や住民税の負担を軽くする重要な手段です。ここでは、会社員が使える代表的な控除制度について解説します。
所得控除は、納税者の個人的な事情を考慮して、所得の合計金額から一定額を差し引く制度です。所得控除が多いほど課税対象となる所得(課税所得)が減るため、結果的に所得税や住民税の負担が軽くなります。
サラリーマンが利用できる主な所得控除には、以下のようなものがあります。
その他にもさまざまな控除があるため、自身に条件が当てはまり、使える控除がないか国税庁のサイトで確認しましょう。
税額控除は、所得控除を差し引いて計算された所得税額から、直接一定額を差し引くことができる制度です。税額そのものを減らすため、所得控除よりも節税効果が大きくなる特徴があります。
サラリーマンにとって最も代表的な税額控除は「住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)」です。住宅ローン控除については後述します。
サラリーマンの所得税は、毎月の給与から源泉徴収(天引き)されていますが、この時点では各種控除が正確に反映されていません。そこで、年末に正しい税額を計算し、過不足を精算する手続きが「年末調整」です。これは会社が行ってくれます。
一方、「確定申告」は、個人が1年間の所得と税額を自ら計算して税務署に申告・納税する手続きです。通常、サラリーマンは年末調整で手続きが完了しますが、医療費控除や住宅ローン控除の初年度など、年末調整では対応できない控除を利用する場合は、自身で確定申告を行う必要があります。
ここでは、サラリーマンが実際に活用できる具体的な節税策を、厳選してご紹介します。医療費控除やふるさと納税、iDeCoなど、知っておくだけで手取りが変わる制度を押さえておきましょう。
1年間に支払った医療費の合計が10万円(または総所得金額等の5%のいずれか低い方)を超えた場合、確定申告を行うことで「医療費控除」を受けられます。本人だけでなく、生計を同じくする配偶者や親族のために支払った医療費も合算できます。
また、医療用医薬品のうち安全性や有効性が認められ、ドラッグストアなどで販売できる市販薬に転用(スイッチ)した、「スイッチOTC医薬品」を年間1万2千円以上購入した場合は、「セルフメディケーション税制」という特例を利用できます。
どちらか一方を選択して適用を受けることになり、両方の制度を同時に利用することはできません。
「ふるさと納税」は、応援したい自治体に寄付ができる制度です。寄付した金額のうち、自己負担額の2,000円を除いた全額が、所得税や住民税から控除されます。さらに、寄付先の自治体から肉や魚、果物などの返礼品を受け取れる点が大きな魅力です。
確定申告が不要な給与所得者で、年間の寄付先が5自治体以内であれば、「ワンストップ特例制度」を利用できます。この制度を使えば、確定申告をせずに控除を受けられるため、手続きが簡単になります。
これらの控除は、年末調整で手続きできる最も身近な節税策です。給与から天引きされている社会保険料は自動的に控除されますが、例えば、大学生の子供の国民年金保険料を親が支払った場合などは、その分も社会保険料控除の対象になります。年末調整の際に申告を忘れないようにしましょう。
また、結婚や子供の独立など、年の途中で家族の状況に変化があった場合は、配偶者控除や扶養控除の対象になるか見直しが必要です。
生命保険、介護医療保険、個人年金保険などに加入し、保険料を支払っている場合、「生命保険料控除」として一定額を所得から差し引くことができます。控除を受けるには、秋頃に保険会社から送付される「生命保険料控除証明書」を年末調整の際に会社へ提出する必要があります。
生命保険料控除は、支払った保険料の種類によって「一般の生命保険料」「介護医療保険料」「個人年金保険料」の3つに区分されます。それぞれについて所得税で最大4万円、住民税で最大2.8万円の控除が受けられ、合計では所得税で最大12万円、住民税で最大7万円までの控除が可能です。
また、地震保険料控除では、1年間に支払った地震保険料に応じて、所得税で最大5万円、住民税で最大2.5万円まで控除されます。火災保険や家財保険は対象外となり、地震保険に加入していることが条件です。
将来の年金に備えつつ節税効果が得られる制度として、「確定拠出年金」が注目されています。確定拠出年金には、個人で任意に加入するiDeCo(個人型確定拠出年金)と、企業が制度を導入している場合に従業員が利用できる企業型DC(企業型確定拠出年金)の2種類があります。
iDeCoでは、加入者が毎月の掛金を拠出し、自ら選んだ金融機関の商品ラインナップの中から運用先を選んで資産を形成していきます。最大のメリットは節税効果で、拠出した掛金の全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の対象となります。たとえば年間24万円を拠出した場合、24万円すべてが課税所得から差し引かれ、所得税・住民税の負担が軽減されます。
一方、企業型DCは、企業が毎月一定額を拠出し、あらかじめ用意された商品の中から商品を選んで従業員が自己責任で運用する仕組みです。企業が拠出した分は従業員の給与には含まれず、課税対象外(非課税)となるため、間接的な節税になります。企業によっては、さらに任意で個人拠出(マッチング拠出)が認められており、この場合の掛金もiDeCoと同様に所得控除の対象となります。
確定拠出年金制度はいずれも運用益が非課税となるうえ、受け取り時にも退職所得控除や公的年金等控除の対象となるため、長期的に見ても高い節税効果が期待できます。iDeCoと企業型DCの違いを把握し、自分に合った方法で賢く老後資金を準備しましょう。
iDeCoについては以下の記事で詳しく解説しています。
iDeCoはデメリットしかないという誤解を解消!制度内容とメリットを解説
iDeCoとNISAはどっちを優先する?違い・使い分け・年代別の選び方を解説
住宅ローン控除は、住宅ローンを利用してマイホームを購入したり、増改築したりした場合に適用される制度です。年末時点での住宅ローン残高の一定割合が、所得税から直接差し引かれます(税額控除)。所得税から控除しきれない分は、一部住民税からも控除されます。
適用を受けるには、物件の床面積や合計所得金額、居住年など、いくつかの条件を満たす必要があります。制度の内容は税制改正によって変更されることがあるため、利用する際は最新の情報を確認することが重要です。
控除額や条件についての詳細は以下で解説しています。
【2025年版】住宅ローン減税の仕組みと2026年以降の展望を解説
住宅ローン控除は、適用を受ける最初の年だけ必ず自分で確定申告をしなければなりません。忘れると控除を受けられないため注意が必要です。
2年目以降は手続きが簡素化されます。税務署から送られてくる「年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書」と、金融機関から届く「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」を勤務先に提出すれば、年末調整で手続きが完了します。
節税と並行して、将来に備える資産形成も大切です。NISA(少額投資非課税制度)は、投資による利益が非課税になる制度で、税負担を抑えつつ資産を増やす手段として注目されています。
2024年から始まった新NISAでは、非課税で投資できる上限額が大幅に拡大し、より柔軟な資産運用が可能になりました。
NISAはiDeCoのような掛金の所得控除はありませんが、いつでも自由に資金を引き出せる流動性の高さが魅力です。少額から始められるため、投資初心者の方にも適しています。
NISAについては以下で詳しく解説しています。
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節税は、支払う税金を減らすための有効な手段ですが、そのために不必要な支出を増やすことは本末転倒です。例えば、生命保険料控除の上限額に達するために、必要以上の保険に加入すると、保険料の負担が家計を圧迫しかねません。
控除はあくまで支払った金額の一部が対象になる制度です。節税目的で支出を増やすのではなく、元々必要な支出の中で活用できる制度を探すという視点を持ちましょう。
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せっかく控除の対象となっていても、必要な手続きを行わなければ、その恩恵を受けることはできません。年末調整の際には、保険料控除証明書などの必要書類を漏れなく提出することが大切です。
また、確定申告が必要な場合は、期限(原則として翌年の2月16日から3月15日まで)内に必ず申告を済ませましょう。手続きを忘れると、本来受けられるはずだった還付金を受け取れなくなってしまいます。
毎年秋頃になると、勤務先から年末調整に関する書類が配布されます。主に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」や「給与所得者の保険料控除申告書」などです。
これらの書類に必要事項を正確に記入し、生命保険料や地震保険料の控除証明書といった添付書類とともに提出します。この手続きを正しく行うことが、サラリーマンの節税の第一歩です。
以下のようなケースに該当する場合は、年末調整とは別に確定申告が必要です。
確定申告の提出期限は原則として翌年の2月16日から3月15日までです。申告書は国税庁のウェブサイト「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、自宅のパソコンやスマートフォンからでも作成できます。マイナンバーカードと対応するスマートフォンがあれば、税務署へ足を運ぶ必要がなく、e-Tax(電子申告)で簡単に提出まで完了できます。
節税のための手続きも、工夫次第でよりお得かつスムーズに進められます。例えば、クレジットカードで納税すれば、ポイントが貯まり実質的な還元を受けられることもあります。また、家計簿アプリやマイナポータル連携を活用すれば、確定申告の手間を大幅に削減できます。ここでは、節税をもっと効率的に進めるための具体的な方法をご紹介します。
一部の国税や地方税は、クレジットカードでの納付が可能です。納税額に応じたクレジットカードのポイントが貯まるというメリットがあります。ただし、納税額に応じた決済手数料がかかる場合が多いため、得られるポイントと手数料を比較し、本当にお得になるかを確認してから利用しましょう。
日々の支出を家計簿アプリで管理しておくと、医療費控除の対象となる支出を年間で集計する際に非常に便利です。レシートを撮影するだけで記録できるアプリも多くあります。
また、マイナポータル連携という機能を使えば、医療費の通知書情報や生命保険料の控除証明書などをデータで一括取得し、確定申告書に自動で入力できます。書類の準備や入力の手間が大幅に省け、申告作業の効率化につながります。
サラリーマンの節税は、特別な知識が必要な難しいものではありません。年末調整でできること、確定申告でできることを正しく理解し、自分に適用できる制度を見つけて行動に移すことが大切です。
ふるさと納税やiDeCoのように、自ら積極的に情報を集めて始めることで大きな効果が期待できるものもあります。まずはご自身の状況を把握し、利用できる控除がないかを確認することから始めてみましょう。一つひとつの小さな備えと習慣が、将来の家計に大きな差を生み出します。
※この記事は2025年8月現在の情報を基に作成しています。
今後変更されることもありますので、ご留意ください。