教育公的年金は払わなくてもいい?未納時のリスクと納付メリットを解説

物価高の中、国民年金の保険料がまた引き上げられました。2024年(令和6年)度の国民年金保険料は1万6,980円で、20年前と比べて3,000円以上も上昇しています。

こうした状況で「年金保険料を払いたくない」「払わずに済む方法はないのか」と思う人もいるでしょう。しかし、年金保険料には法的な納付義務があります。未納状態が続けば他の財産を差し押さえられる、将来の年金を受け取れなくなるといったリスクもあるため、安易な滞納は禁物です。

本記事では、年金未納のリスクや注意点、納付のメリット、どうしても払えないときの対処法を解説していきます。

出典:日本年金機構「国民年金保険料の変遷」

ファイナンシャルプランナー 宮里 恵(M・Mプランニング 代表)

ファイナンシャルプランナー 宮里 恵
M・Mプランニング 代表

保育士、営業事務の仕事を経て、ファイナンシャルプランナーに。
独身、子育て世代から定年後の方までお金に関する相談を受けて、16年目になります。
主婦FPとして、等身大の目線でのアドバイスが好評です。
家計・保険・老後、教育資金などの個別相談を主に、マネーセミナーも定期的に行っているほか、お金の専門家として、テレビ取材なども受けています。
人生100年時代の今、将来のための自助努力、今からできることを一緒に考えていきましょう。

公的年金の保険料支払いは国民の義務

公的年金は国の社会保障制度の1つです。日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人は、公的年金への加入が義務付けられています。税金同様、年金保険料の支払いにはこうした法的義務があるため、ご自身で支払いの有無を判断できるものではありません。

国民年金法で定められている保険料納付義務は、以下表のとおりです。自営業者や学生など第1号被保険者の場合、ご自身だけではなく、世帯主や配偶者にも連帯納付義務が発生します。

【公的年金の保険料納付が義務付けられている人】

区分
( )内は加入制度
対象者 保険料
第1号被保険者
(国民年金)
  • 自営業、農業者、学生など
  • 20歳以上60歳未満で下記以外の人
  • 被保険者本人が保険料を納付する
  • 被保険者本人だけではなく、世帯主・配偶者も連帯して納付する義務がある
第2号被保険者
(国民年金・厚生年金または共済年金)
  • 会社員、公務員など
  • 厚生年金適用事業所に雇用されている70歳未満の人
  • 事業所と被保険者が保険料を折半し、事業所が納付手続きを行う
第3号被保険者
(国民年金)
  • 専業主婦(夫)など
  • 第2号被保険者の配偶者で扶養されている人
  • 保険料負担の必要はなく、配偶者が加入する被用者年金制度が負担する

出典:厚生労働省「国民年金の保険料の納義務」

公的年金全体の納付率は99%。納付率は年々上昇している

公的年金制度の加入対象者全体でみると、未納者・未加入者の割合はわずか1%。保険料免除・猶予者も含めた全体の納付率は99%に及びます。

自営業者や学生が加入する国民年金に限ると、保険料納付率は80.7%(2021年度)に下がります。とはいえ、国民年金保険料においても納付率は上昇しており、未納者の割合は年々減少傾向にあります。日本年金機構は本部に専門チームを設置し、各地域の年金事務所への個別指導や進捗管理を徹底。口座振替・クレジットカード納付の促進、コンビニやスマホ決済サービスの納付導入など、ありとあらゆる対策を実施しています。

また、コロナ禍が明けたことで保険料未納者への督促対応も強化されるようになりました。こうした取り組みによって、今後も未納者の割合はますます減少していくと思われます。

出典:厚生労働省「令和4年度 公的年金制度全体の状況」

払わないとどうなる?年金保険料未納による5つのリスク

年金保険料の納付には法的義務があるため、自己判断で「支払わない」状態を続けると、税金と同じように強制徴収される可能性があります。年金保険料未納によって起こりうる、主なリスクを5つ見ていきましょう。

1.未納が続くと財産を差し押さえられることも

年金保険料の未納状態が続くと、最終的には銀行預金や不動産といった財産を差し押さえられ、未納分の保険料を強制的に徴収される可能性があります。

つまり、年金保険料を納めず放置していると、ある日突然銀行の預金残高が一気に減少。入出金明細を確認すると「サシオサエ」の文字が記載されている、ということになりかねません。特に、一定の所得がありながら支払いを無視している人は差し押さえの対象になるため要注意です。

【財産差し押さえによる強制徴収の対象(2024年時点)】
  • 控除後の所得が300万円以上かつ7か月以上保険料を滞納している人が対象
  • 被保険者本人の財産だけではなく、連帯納付義務者である配偶者や世帯主の財産も差し押さえの対象となる

近年、日本年金機構は市町村からの所得情報等を元に、年金未納者への対応を強化しています。特に「所得があるにもかかわらず払わない者」への対応は厳しく、2023年度(令和5年度)には1万3,243件もの財産差し押さえが実行されました。

出典:厚生労働省プレスリリース「令和4年度の国民年金の加入・保険料納付状況を公表します」

保険料未納で差し押さえになるまでの流れ

年金保険料を払い忘れただけで、いきなり財産を差し押さえられることはありません。
未納から差し押さえまでの大まかな流れは、以下のとおりです。

  1. 電話や文書で納付するよう促される
  2. 特別催告状が送付される
  3. 最終催告状が送付される(赤い封筒)
  4. 督促状が届く【ここから延滞金が発生する】
  5. 差押予告通知書が届く
  6. 財産差し押さえ

通知を無視し続けると、延滞金が加算された金額を差し押さえで失うことになりかねません。年金関連の通知は、くれぐれも無視することのないようにしてください。

2.将来の老齢年金が減額される・受給できなくなる

老後に受け取れる老齢年金の金額が少なくなる、または受給そのものができなくなる可能性もあります。

老齢年金を受け取るためには所定の要件を満たさなければなりません。老齢基礎年金であれば、保険料納付済期間や免除期間などを合算した受給資格期間が10年以上必要です。老齢基礎年金を受け取れない場合、会社勤めの人が受け取れる老齢厚生年金も受け取れません。

たとえば、過去に8年間納付実績があったとしても、途中で納付を一切やめてしまうと、受給資格期間は10年未満となります。この場合、8年分納めた年金保険料は返金されません。また、受給資格期間を満たしていても、未納期間が長ければ当然受給できる金額は減額されてしまいます。

3.万が一の遺族年金や障害年金も受給できなくなる

公的年金の給付には、将来受け取れる老齢年金のほか、万が一の保障として「遺族年金」と「障害年金」があります。年金保険料を払わなければ、遺族年金や障害年金の受給もできなくなる可能性があるのです。

  • 遺族年金:国民年金や厚生年金の被保険者が亡くなったとき、生計を維持されていた遺族が受けることができる年金
  • 障害年金:病気やケガによって生活や仕事などが制限される場合に、現役世代も含めて条件を満たせば受け取ることができる年金

遺族年金や障害年金にも所定の受給要件があり、未納期間が長い人ほど受給できなくなる可能性が高くなります。万が一の備えとして欠かせない公的保障を受けられなくなるのは、大きな損失です。

4.延滞金が加算されてしまう

年金保険料の未納を続けると、やがて未納分の保険料に延滞金が加算されます。支払わなかった年金保険料以上の金額を請求され、それでも払わなければ最終的に強制徴収される可能性があるということです。

延滞金が発生するのは、年金保険料を未納した後、何度通知しても年金を納付しない場合に送られる「最終催告状」の指定期限以降です。最終催告状に記載された期限を過ぎると、本来支払う保険料よりも多い金額を支払う必要があるので注意しましょう。

5.請求詐欺に気が付きにくい

近年、日本年金機構が年金未納者への対応を強化している件に関連し、年金未納分の請求詐欺被害が増えています。

これまで、日本年金機構は民間業者に委託し、未納者の自宅に訪問して未納分の支払いを催促する業務を行っていました(2024年現在は廃止)。そのため、日本年金機構を名乗る人からの自宅訪問に慌ててしまい、その場で言われた金額を払ってしまうという事案が全国で発生しているのです。

きちんと年金保険料を納めていれば、おかしな未納分を請求されたとしても、「払っているから」と一蹴できるでしょう。しかし、実際に未納分がある人は「もしかして」と思い、こうした詐欺に気付かなくなる可能性があります。詐欺やトラブルに巻き込まれないためにも、払うべきものはきちんと払いましょう。
繰り返しになりますが、現在は日本年金機構の訪問による催促はおこなっていません。もしも訪問で年金の未納分をその場で支払うように言われたら詐欺の可能性が高いです。毅然とした態度で断りましょう。

出典:日本年金機構「日本年金機構の職員や委託事業者などと称して、現金を詐取する「不審な電話や訪問」にご注意ください」

年金保険料の納付にはメリットもある

年金保険料を納めると、納めた金額に基づき将来、年金が受給できます。しかし、納付メリットはそれだけではありません。積み立てた年金は法的に保護される、節税対策になるといったメリットもあります。詳しく解説しましょう。

公的年金そのものは差し押さえが禁止されている

年金保険料を払わなければ他の財産が差し押さえられますが、一方で公的年金は「差押禁止財産」として、法律で保護されています。

通常、各種ローンやクレジットカードの支払いを滞納すると、事業者が滞納した債権を回収するため、預金などの財産を差し押さえることがあります。しかし公的年金の受給権は、こうした差し押さえの対象外です。今後、万が一各種支払いが困難になり、自己破産をするような事態になったとしても、公的年金の受給権が失われることはありません。

先行きが不透明な時代だからこそ、こうした保護機能は、老後に向けての安心材料と言えます。

年金保険料は全額所得控除の対象になる

年金保険料は、納めた金額が全額所得控除の対象になります。所得控除とは、課税所得を減らすことで所得税・住民税の負担を軽減できる公的な節税策です。

一般的に、会社員が納める厚生年金保険料の所得控除は会社側が行いますが、自営業者が納める国民年金保険料の所得控除は自営業者自身が確定申告で行います。ただし、確定申告についての理解度は個人差が大きいため、中には所得控除を活用できていない人もいるのではないでしょうか。

年金保険料を納めている人は、節税のために必ず確定申告で所得控除を活用してください。公的年金の場合は、「社会保険料控除」という名称で納めた年金保険料を申告します。所得控除を忘れていた場合でも、5年前までの申告であれば、改めて申告することで税金の還付を受けられます。

【監修者コメント】

通常払っている年金保険料だけでなく、追納する場合の保険料も社会保険料控除により、所得税・住民税が軽減されます。

年金保険料を払えないときは「免除」「納付猶予」制度を活用しよう

経済的な事情で年金保険料の支払いが困難なときもあるでしょう。そのようなときは、「免除制度」または「納付猶予制度」を申請してください。

免除制度・納付猶予制度を申請して承認されれば、その期間は年金保険料を納めなくても受給資格期間にカウントされます。ただし、将来の年金受給金額に影響するといった注意点もあります。あわせて見ていきましょう。

年金保険料の免除制度とは

免除制度は、公的年金の被保険者本人・世帯主・配偶者の前年所得(または前々年所得)が一定額以下の場合や、失業したときなどに申請できる制度です。本人だけではなく、世帯主や配偶者それぞれの所得についても、基準以下でなければなりません。

申請後に承認されれば、年金保険料の納付が全額・または一部免除されます。ただし、免除を受けた期間については、将来の年金額が一定割合に減額するため注意が必要です。

  所得基準
前年所得が以下の計算式で計算した金額の範囲内であること
受給資格期間
へのカウント
将来の年金額への反映
全額免除 (扶養親族等の数+1)×35万円+32万円(※)
(※)令和2年度以前は22万円
カウントされる 8分の4
4分の3免除 88万円(※)+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等
(※)令和2年度以前は78万円
8分の5
半額免除 128万円(※)+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等
(※)令和2年度以前は118万円
8分の6
4分の1免除 168万円(※)+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等
(※)令和2年度以前は158万円
8分の7

なお、災害や失業による免除の場合は、前年所得が上記の基準を超えていても、免除を受けられる可能性があります(特例免除)。詳細については、地域の年金事務所や自治体の年金窓口で確認してみてください。

年金保険料の納付猶予制度とは

納付猶予制度は、20歳から50歳未満で、本人・配偶者の前年所得(または前々年所得)が一定額以下の場合に申請できる制度です。

申請後に承認されれば、保険料の支払いが猶予されます。納付猶予された期間については、将来の年金額に一切反映されない点は要注意です。

  所得基準
※以下の計算式で計算した金額の範囲内であること
受給資格期間
へのカウント
将来の年金額への反映
納付猶予 (扶養親族等の数+1)×35万円+32万円(※) カウントされる 反映なし

上記のほか、以下の猶予特例制度もあります。

  • 学生納付特例制度:所得が一定額以下の学生であれば申請できる
  • 失業等による特例制度:退職や失業で納付が困難な人が申請できる
  • 産前産後期間の免除制度:第1号被保険者は、産前産後の4か月間の保険料が免除される
  • 配偶者からの暴力を受けた方の国民年金保険料の特例免除制度:配偶者からの暴力を受け、配偶者と住所が異なる場合、本人の所得が一定額以下であれば保険料が全額または一部免除される

年金保険料の支払いが困難なとき、あるいは学生や妊娠中などで特例要件に当てはまるときは、地域の年金事務所や自治体の年金窓口で相談してみてください。

免除・猶予された年金保険料は10年以内であれば追納できる

「追納」とは、免除・納付猶予制度された年金保険料を後から納められる制度です。

免除・納付猶予された期間は、各種年金の受給資格期間にカウントされるため、未納時のように受給要件が不利になることはありません。しかし、免除・納付された期間があると、満額で納付している場合より、将来の年金額が少なくなります。

追納制度を利用すれば、10年以内の年金保険料は後から納めることができます。経済状況が回復してきたら適宜追納し、将来の年金受給額を増やしましょう。まとめて追納すれば、納めた分の社会保険料控除を受けることで、所得税・住民税も軽減できます。

【監修者コメント】

「未納」の場合、遡って2年前までしか納められないですが、「追納」は10年前の分まで納めることができます。また、免除・納付猶予制度の場合、万一の時の障害年金等が受け取れるので手続きは必ずしましょう。

まとめ

年金保険料の支払いは日本国民の義務であり、自己判断でやめることはできません。何も手続きをせずに未納状態を放置していると、ある日突然他の財産が差し押さえられる、延滞金の加算によって未納分以上の納付が必要になるなどのリスクがあります。

一方で、公的年金は法的に保護されている差押禁止財産でもあります。たとえ自己破産したとしても、公的年金を受け取る権利はなくなりません。先行き不透明な時代だからこそ、経済状況が悪化しても保護される財産を築くのは、大切なことではないでしょうか。将来のため、また遺族年金や障害年金といった万が一の保障を受けるためにも、年金保険料をしっかり納めましょう。

【監修者コメント】

20歳から60歳まで40年間の国民年金保険料をすべて納めると、満額の老齢基礎年金を受け取ることができます。どうしても払うのが厳しい場合は、免除や猶予申請をして払えるようになったら、追納するようにしましょう。

※この記事は2024年5月現在の情報を基に作成しています。
今後変更されることもありますので、ご留意ください。

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