持ち家には維持費がかかりますが、一方で老後には一つの資産として活用できます。夫婦の老後資産を考えるときは、持ち家の活用方法もふまえて考えるといいでしょう。
本記事では、持ち家ありの夫婦が安心して老後を過ごすために必要な資産について解説します。持ち家の活用方法も紹介していきますので、老後資産について考えているご夫婦は参考にしてみてください。
目次
老後資産の必要額は各家庭によって異なりますが、それでも一般的な目安がいくらなのか気になる人は多いでしょう。
ここでは、総務省の2021年度家計調査から高齢世帯の貯蓄額や負債額、生活費の平均像をご紹介していきます。ご自身の家庭と照らし合わせて、参考にしてみてください。
2021年度家計調査によると、世帯主が65歳以上で2人以上いる高齢世帯の平均貯蓄額は2,376万円※1です。実は、老後資産が2,000万円を超える家庭は少なくありません。本調査では、全体の3割以上の世帯が2,500万円以上の資産を保有していることがわかります。
一方で、貯蓄保有世帯の貯蓄額の中央値は1,588万円※2でした。中央値とは、貯蓄がゼロの世帯を除いて、貯蓄の少ない世帯から多い順番に並べたとき、ちょうど中央にくる世帯の貯蓄額のこと。平均値は極端に貯蓄が多い富裕層によって数値が左右されますが、中央値は大きな数の影響を受けにくいのが特徴です。
より一般的な高齢世帯の実像に近い貯蓄額は、中央値である1,588万円と言えるでしょう。
※1・2の出典:総務省「家計調査(貯蓄・負債編)-2021(令和3年)平均結果-」 P25「5 世帯主が65歳以上の世帯」の図「Ⅲ-5-1 世帯主が65歳以上の世帯」
2021年度家計調査によると、世帯主が65歳以上で2人以上いる高齢世帯のうち、91.7%※3は持ち家を所有しています。
同調査によると、住宅・土地関連の負債額は平均76万円でした※4。
※3・4の出典:総務省「家計調査(貯蓄・負債編)-2021(令和3年)平均結果-」のe-Statより 「表番号:8100」「表題:貯蓄・負債((高齢者のいる世帯)世帯主の就業状態別)」
高齢世帯の9割以上は持ち家を所有しているものの、住宅ローンの残債はほとんどありません。2021年時点で高齢者にあたる世帯の多くは、現役時代にある程度住宅ローンを返済できていることがわかります。
2021年度家計調査によると、世帯主が65歳以上で夫婦のみの無職世帯の場合、毎月の生活費(消費支出)の平均は22万4,436円※5です。ただし毎月の家計は赤字で、公的年金の収入に対し1万8,525円の不足が発生しています。
これまでの調査をまとめると、老後の夫婦の平均像は「1,500万円程度の貯蓄があり、9割以上は持ち家で住宅ローンもほぼ完済に近い状態。しかし毎月の生活費に不足が生じており、貯蓄額から補てんしている」と推察できます。毎月の家計は約2万円の赤字ですが、このまま大きな支出がなければ、1,500万円程度の貯蓄であと20~30年は生活できるでしょう。
ただし、この生活費(消費支出)には先述した「住宅・土地関連の負債額」は含まれていません。もし老後も毎月住宅ローンの返済が続く場合は、返済額が家計に与える影響はさらに大きくなるでしょう。また、子どもの結婚や孫の誕生などのお祝い金、老後の旅行や趣味による娯楽費を加味すると、早期に貯蓄が底をつく可能性もあります。
また、上記で解説している一般的な高齢者像は、あくまで2021年度時点の平均像です。
将来は現在よりも公的年金受給額が減ったり、老後にかかる生活費の水準が上がったりする可能性があります。
平均像はあくまで一つの参考にしつつ、各家庭にとって必要な老後資産を考え、今から備えを始めるようにしましょう。
各家庭にとって必要な老後資産を算出するには、以下の計算式を元に「老後の不足額」を把握することから始めます。
今するべきことは老後の収入と支出を把握し、老後資産の不足額を確認することです。もちろん、現時点で将来の収入や支出を完璧に割り出すことはできません。わかる範囲でいいので、大よその不足額を確認しておくことが大切です。
ここでは、老後に得られる収入と老後にかかる生活費を把握する方法を解説していきます。
老後に得られる収入は、大きく分けて以下の4つです。
上記のうち、公的年金は登録制の「ねんきんネット」で試算できます。登録しておくと自身の年金額を定期的に確認できるのでおすすめです。私的年金は個人の加入状況、退職金は会社の退職金規定によって異なるため、各自で確認しておきましょう。
4つめの労働収入は、人によって大きく違うポイントです。会社員で勤務先の再雇用制度(継続雇用制度)を活用して働く場合は、現役時代より収入が下がる可能性があります。可能であれば、再雇用時の給与形態について会社で事前に調べておくといいでしょう。
なお、フリーランスや個人事業主の場合は、業種や職種、個人の裁量や環境によって収入が変動します。
老後に毎月かかる生活費には、住居費、食費、水道・光熱費、医療費や通信費などがあります。どの程度の生活費がかかるかは人によって異なるため、悩んだときは「現役時代の生活費の70%程度」を老後の生活費の目安にします。
2021年度家計調査によると、2人以上の世帯のうちもっとも生活費が高い年齢層は50~54歳の35万4,494円です※6。ここに70%を掛ければ24.8万となり、老後の平均的な生活費に近づきます。大まかな計算ではありますが、老後の生活費をイメージするうえで一つの目安になるでしょう。
※6出典:総務省「家計調査(家計収支編)-2021(令和3年)平均結果-」e-Statより 「表番号:005」「表題:世帯主の年齢階級別」
ただし、住宅ローンの返済が老後に及ぶ場合は、70%以上の生活費がかかる可能性が高くなります。住宅ローン返済は、極力老後に入る前に完済しましょう。
また、持ち家がある場合は住宅を維持・修繕するための費用も別途必要です。
マンションの場合は10年~15年ごとに大規模修繕が行われ、築年数が35年を超えると修繕積立金が跳ね上がる傾向にあります。戸建ての場合は10年~15年ごとに屋根や外壁、水道管などの修繕が必要になる可能性があり、場合によっては修繕費が数百万円に及ぶこともあるでしょう。持ち家の場合はこうした維持・修繕費を想定して老後の生活費をシミュレーションしつつ、今から少しずつ資産形成をしておくことが大切です。
持ち家には維持・修繕費がかかりますが、一方で老後は自宅を「資産」として活用できる可能性があります。
これから紹介する方法を参考に、老後資産作りに持ち家を活かすことも検討してみてください。
持ち家を売却し、その資金を元に老後の生活に適した住宅に移り住む方法です。
たとえば、現在は郊外の戸建てに住んでいるケース。戸建ては維持費・修繕費がかかるうえ、夫婦2人で暮らすには広すぎる場合があります。
そこで老後は思い切って自宅を売却し、その資金を元に都市部のコンパクトな賃貸物件に移り住めば、維持費と修繕費を抑えやすくなります。また、自家用車を所持しているケースでは、交通機関の整っている便利な地域に住むことで自家用車の必要がなくなり、車の維持費も削減できます。
リースバックとは、持ち家を売却して現金化した後、その家に賃貸契約で住む方法です。
自宅の所有権は変わりますが、売却によってまとまった資金を得ながら愛着のある自宅に住み続けることができます。「老後も住宅ローン返済が続き負担が大きい」という人や「子どもに自宅を相続する気がない」という人は、老後資産と相続の不安を解消できます。
自宅に思い入れがあるという人は、リースバックで自宅に住みながら老後資産を得ることも検討してみるといいでしょう。
リバースモーゲージとは、持ち家を担保に金融機関から融資を受ける方法です。
自分たちが死亡した後は、住宅の一括売却により融資された金額を一括返済できます。そのためリースバック同様、愛着のある自宅に住みつつまとまった資産を得られるのが特徴です。
リースバックは売却が前提にあるため自身が生存している間に所有権が変わりますが、リバースモーゲージは死後の売却が前提になっているため、自身の死後所有権が変わります。いずれにしても「死後は自宅を子どもに相続させる」ことができず、「不動産会社の求める要件を満たさなければ利用できない」点には注意が必要です。
ご紹介した3つの活用方法は、老後時点の持ち家の価値によって可能性が変わってきます。必ず活用できるわけではないため、老後の選択肢の一つとして覚えておき、家族とよく話し合って持ち家をどうするか検討しましょう。
2021年時点の一般的な高齢世帯の平均像を見ると、「9割以上は持ち家があり、毎月の生活費の不足を補える老後資産が1,500万円程度ある」ことがわかりました。
もちろんこの平均像は2021年時点の数値であり、将来の物価水準や公的年金受給額によっては大きく変わる可能性があります。また、当然ながら各家庭によって必要な老後資産は異なるため、夫婦にとっての必要額はいくらかを考えることが大切です。本記事でご紹介した方法で公的年金などの「老後に得られる収入」と「老後にかかる生活費」を把握し、老後の不足額がいくらになるのかを確認しておきましょう。
持ち家がある場合は、老後も持ち家の維持・修繕費が発生しますが、一方で持ち家を売却・リースバックなどの手段で資産として活用できる可能性があります。持ち家の評価額や相続人となる家族の承諾状況によって利用の有無は変わってきますが、持ち家があれば複数の選択肢を検討できるのはメリットです。
「老後は持ち家に住み続けなければならない」と頑なに考える必要はありません。老後は持ち家を元にまとまった資金を得ることも念頭に置き、夫婦にとって最善の暮らしとは何かを柔軟に考えることが大切です。
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※この記事は2022年10月現在の情報を基に作成しています。
今後変更されることもありますので、ご留意ください。