教育103万円の壁とは?税金の仕組みや壁を超えたときの税額の計算方法を紹介

2024年10月に行われた衆議院議員選挙を機に、「103万円の壁を撤廃して手取りを増やす」という公約が話題になりました。103万円の壁とは、給与収入に所得税がかかる年収のボーダーラインのことです。

本記事では、改めて103万円の壁とはどのような意味なのか、そのほかの年収の壁、103万円の壁撤廃に向けた直近の動向について解説します。

金子賢司

【執筆・監修】
金子賢司

CFP資格所有(FP1級と同等)
東証一部上場企業(現在は東証スタンダード市場)で10年間サラリーマンを務める中、金融に興味を持ち、資産運用やローンなどの勉強を始める。
その後、生命保険会社、損害保険会社での勤務を経て、ファイナンシャルプランナーとして独立。現在は、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信しています。

年収が103万円の壁を超えると、お勤めの方は所得税がかかり始める

103万円の壁とは、会社員やパート、アルバイトなど勤務先から給与収入がある方に所得税がかかり始める年収のことです。受け取っている給与収入が103万円以下であれば、所得税がかかりません。

103万円とは、基礎控除48万円と給与所得控除55万円の組合せ

103万円という金額は、基礎控除48万円と給与所得控除55万円を合計したものです。控除とは、税金を計算するときに収入から差し引ける金額のことを指します。

所得税や住民税は1年のすべての収入から、経費や各種控除を引いて「課税所得」を算出し、課税所得に税率をかけて計算する仕組みです。そのため控除が適用されれば、課税所得が減少するため所得税や住民税が軽減されます。

基礎控除とは

基礎控除は所得が2,500万円以下の方なら、誰でも受けられる控除です。所得とは収入から経費を引いた金額を指します。

基礎控除額は所得が2,400万円以下の方なら誰でも48万円、それを超えると段階的に減少していき、2,500万円を超えるとゼロになる仕組みです。

【基礎控除の金額】
合計所得金額 控除額
2,400万円以下 48万円
2,400万円超2,450万円以下 32万円
2,450万円超2,500万円以下 16万円
2,500万円超 0円
給与所得控除とは

給与所得控除とは、会社員やパート、アルバイトのように給与所得者が受けられる控除のことです。給与を受け取っている人は、個人事業主のように必要経費を差し引くことができない代わりに、給与収入等に応じた控除が認められています。

【給与所得控除額】
給与等の収入金額
(給与所得の源泉徴収票の支払金額)
給与所得控除額
162.5万円まで 55万円
162.5万円超180万円まで 収入金額×40%
180万円超360万円まで 収入金額×30%+18万円
360万円超660万円まで 収入金額×20%+54万円
660万円超1,000万円まで 収入金額×10%+120万円
1,000万円超 220万円(上限)

上記の表から、給与収入等が162.5万円までの方は、55万円の控除が受けられます。

また給与収入等が162.5万円までなら48万円の基礎控除も併せて適用されるため、基礎控除48万円+給与所得控除55万円=103万円までは所得税がかからないのです。

住民税がかかるのは年収93~100万円くらいから

住民税は課税所得金額に10%を乗じて計算する所得割と、所得にかかわらず定額の負担を求める均等割の2つに分かれています。さらに均等割の対象者は、2024年からは1人年額1,000円の森林環境税も徴収されるようになりました。

所得税も住民税も、課税所得に一定の税率をかけて計算する点は同じですが、103万円の壁とはあくまでも所得税に関する内容です。

住民税は自治体によって異なりますが、年収93万円~100万円を超えると均等割がかかります。また年収100万円を超えると所得割がかかるようになります。

103万円の壁を超えると親の税金が増えることがある

働いて収入を得ている親は、扶養者がいると扶養控除という控除が受けられます。控除額は扶養者の年齢や同居の有無で異なりますが、38~63万円です。

しかし103万円の壁を超えて働くと扶養者ではなくなってしまい、親は扶養控除が受けられません。扶養控除が受けられないと、親は課税所得が38~63万円増えてしまいます。

課税所得が38~63万円増えると、所得税率が10%だった場合、単純計算で親の所得税が3万8,000円~6万3,000円が増えてしまうのです。

ただし19歳以上23歳未満の特定扶養控除については、2025年から年収要件が103万円から150万円に変更され、仮に超えた場合も親の手取りが急に減らない仕組みが検討されています。

103万円の壁はどのような収入?

103万円の壁はその年の1月~12月の収入が対象です。ただし通勤手当や交通費は103万円に含まれません。103万円の壁に含まれる収入について、詳しく紹介します。

1月から12月の収入が対象

所得税の課税対象は、その年の1月~12月の税金や社会保険料が引かれる前の収入を合計して計算をします。複数の職場を掛け持ちしている場合や、年の途中で辞めたバイトやパート収入もすべて合計します。

通勤手当や交通費は103万円に含まれない

勤務先から支給される通勤手当や交通費は、103万円には含まれません。通勤手当や交通費が非課税になる限度額は15万円なので、15万円を超えてしまうと、超えている分が課税対象になります。

また日給などに交通費が含まれて支給されるような場合、交通費と給料を分けられないため、すべて課税対象となります。

103万円の壁を超えた場合の税金を計算してみよう

年収103万円を超えると、どれくらい所得税を負担する必要があるのでしょうか?給与収入が年間108万円のケースで計算してみましょう。

【所得税】

給与収入108万円-基礎控除48万円-給与所得控除55万円=課税所得5万円
課税所得5万円×5%※1=2,500円

※1 税率は課税所得金額に応じて異なります。

【住民税】

給与収入108万円-基礎控除43万円※2-給与所得控除55万円=課税所得10万円

  • 課税所得10万円×税率10%※3=所得割1万円
  • 均等割4,000円※4
  • 森林環境税1,000円

所得割1万円+均等割4,000円+森林環境税1,000円=住民税合計1万5,000円

所得税2,500円+住民税合計1万5,000円=合計税額1万7,500円

※2 住民税の基礎控除額は43万円
※3 住民税の税率は一律で10%
※4 自治体によって3,000~5,000円程度と異なる

103万円以外の年収の壁を紹介

収入の壁は103万円以外にも106万円、130万円、150万円、201万円があり、これらを総称して「年収の壁」と言います。ここでは年収103万円以外の年収の壁を紹介します。

106万円の壁

従業員が51人以上いる企業で、パートやアルバイトなど1社で年収106万円を定期的に超える働き方をした場合、配偶者の扶養から外れます。

この場合、勤務先の社会保険に加入して、社会保険料を負担しなければなりません。

社会保険料とは、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険にかかる保険料のことです。40歳になると介護保険の保険料負担も生じます。

なお106万円の壁は、学生は対象外です。ただし休学中や夜間学生は除きます。

130万円の壁

130万円を超えると、基本的にすべての方が勤務先の社会保険に加入する必要が生じます。130万円の壁は、1社ではなく合計の年収で判断されます。

勤務先の社会保険に加入するため、自身で社会保険料の負担が必要です。

ただし2023年10月からは、収入が一時的に130万円を超えても事業主が証明することで、連続2年まで引き続き扶養に入り続けられる「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」という措置が利用できます。

150万円と201万円の壁

150万円の壁を超えると家族の配偶者特別控除が減少し始め、201万円の壁を超えると配偶者特別控除がゼロになります。

例えば会社員Aさんと、パートで働いているAさんの配偶者Bさんという夫婦がいたとします。

Bさんの所得が103万以下であれば、Aさんは38万円の配偶者控除が受けられます。ただBさんの所得が103万円を超えても、すぐにAさんの控除額が減り始めるわけではありません。

Bさんの所得が103万円を超えると配偶者特別控除に変わり、Bさんの所得が150万円になるまでAさんは38万円の控除が受けられます。

しかしBさんの所得が150万円を超えると、段階的にAさんの配偶者控除が36万円、31万円のように段階的に減少します。つまりBさんの所得が増えるほど、Aさんの手取り額が減っていくことになります。

そしてBさんの所得が201万円を超えると、Aさんは配偶者特別控除も受けられなくなります。

なお配偶者控除と配偶者特別控除はAさんの所得要件もあります。Aさんの所得が900万円を超えると配偶者控除と配偶者特別控除は段階的に減少し、1,000万円を超えると控除額はゼロになります。

また103万円を超えると、Bさん自身は103万円の壁を超えるため所得税がかかり始めます。

103万円の壁の見直しが検討されている

2024年10月に行われた衆議院議員選挙を機に、103万円の壁の見直しが検討されるようになりました。

103万円を超えて働くと所得税や負担が生じて、手取りが下がってしまいます。また子どもや学生が103万円の壁を超えて働くと、親の手取りが減ってしまうという問題もあり、働きたくても働けないという方もいます。

さらに最近では人手不足から、時給をアップしなければ人が集まらない状況です。しかし時給をアップさせると、103万円の壁に早く到達してしまうため、さらに働き控えが起こりやすくなるという問題を、多くの企業が抱えています。

こうした問題を解決する方法として、103万円の壁の見直しへの期待が高まっているのです。

103万円の壁、廃止はいつから?

103万円の壁の廃止については早急に行われる公算が高く、早ければ2026年1月からスタートする可能性があります。

ただし103万円からいくらまで引き上げられるのかは議論の途中です。最低賃金の上昇率をふまえ、178万円まで引き上げるべきとの意見もありますが、最終的にいくらになるかは決まっていません。

103万円の壁を廃止するメリット

103万円の壁を廃止することで、これまで手取りが減ってしまうので働き控えをしていた方は、労働時間の制約が緩和されます。職種や勤務先の選択肢も増えるでしょう。

企業にとっては、途中でパートやアルバイトが103万円の壁に到達してしまうことで働き控えをしてしまい、年末の最も忙しい時期に人が集まらないという問題の緩和にもつながります。

103万円の壁を廃止するデメリット

103万円の壁を撤廃しても、106万円の壁や130万円の壁があるため、大きな働き控え解消や、手取り額アップにはつながらないという意見もあります。

106万円、130万円の壁を超えてしまうと、自身で社会保険料を負担する必要があり、103万円の壁以上に高い壁と言われています。

なお106万円の壁は、2026年10月に撤廃される議論が行われている最中です。

また仮に103万円の壁が178万円まで引き上げられた場合、国と地方の税収が約7.6兆円減少すると言われています。103万円の撤廃により、地方公共団体の歳入が減ってしまい、十分なサービスを提供できなくなるなど一般市民に悪影響を及ぼすと考えられています。

主婦(主夫)は103万円と130万円どっちを稼いだ方が得?

主婦(主夫)の場合、103万円の控除を超えて130万円になったとしても配偶者特別控除があるため、配偶者の控除額が減るわけではありません。

ただし103万円を超えれば配偶者に、所得税の負担が生じます。仮に妻(夫)の収入が130万円の場合、負担する所得税額は1万3,500円です。

単純に手取り額で比較をすれば130万円を稼いだほうが多くなりますが、所得税の負担を避けたいのであれば103万円を超えないようにとどめておきましょう。

まとめ

103万円の壁とは基礎控除と給与所得控除を合計した金額のことで、超えると所得税がかかり始めます。また親が会社員の場合、103万円を超えると親の手取り額が減ってしまう場合があります。

現在103万円の壁についての議論が活発になっていますが、その他にも106万円、130万円、150万円、201万円の壁もあります。それぞれの壁の仕組みを理解して、自身に合った働き方を考えることが大切です。

※この記事は2024年12月現在の情報を基に作成しています。
今後変更されることもありますので、ご留意ください。

この記事をシェアする

このカテゴリの記事一覧を見る