相続今からできる相続対策|家族間トラブルと相続税負担に備えよう

相続対策と聞くと、相続税の節税対策に注目が集まりがちです。しかし相続対策で大切なのは、相続税の負担を軽減することだけではありません。

仲の良かった兄弟・姉妹が遺産相続の割合でもめるなど、相続の現場では思わぬ家族間トラブルが発生するケースがあります。そこで本記事では、相続で対応すべき問題である「家族間トラブル」と「相続税負担」を分け、それぞれの対策を解説します。

ファイナンシャルプランナー 宮里 恵(M・Mプランニング 代表)

ファイナンシャルプランナー 宮里 恵
M・Mプランニング 代表

保育士、営業事務の仕事を経て、ファイナンシャルプランナーに。
独身、子育て世代から定年後の方までお金に関する相談を受けて、16年目になります。
主婦FPとして、等身大の目線でのアドバイスが好評です。
家計・保険・老後、教育資金などの個別相談を主に、マネーセミナーも定期的に行っているほか、お金の専門家として、テレビ取材なども受けています。
人生100年時代の今、将来のための自助努力、今からできることを一緒に考えていきましょう。

相続対策は「家族間トラブル」と「相続税負担」に分けて考えよう

相続対策では、「家族間トラブル」と「相続税の負担」という問題を分けて考えるようにしましょう。

原則として、相続税の申告・納付期限は相続発生から10か月です。この期間中に相続財産の計算や相続人の調査、遺産分割協議などを行ったうえで、遺産に係る相続税を申告・納税することになります。しかし相続税を納める以前に、相続財産の分配について家族ともめてしまい、遺産分割協議が進まないケースは少なくありません。

もしも遺産分割協議が進まずに相続税の申告・納税期限を過ぎてしまえば、追徴課税というペナルティーが課せられます。せっかく相続税対策をしていても、家族間トラブルによって税金の負担が増えてしまう事態もあるのです。税金の負担が重くなるうえに家族の絆すらバラバラになってしまう事態にならないよう、税金と家族の問題は分けて対策を行いましょう。

家族間トラブルを防ぐ相続対策 基本の3ステップ

相続財産を巡る家族間トラブルを防ぐためには、生前から家族同士でしっかり話し合い、合意形成をはかるしかありません。

とはいえ、財産を遺す人(以下「被相続人」)が一方的に「自分の遺産はこうしたいから納得してほしい」と言っても、受け取る人(以下「相続人」)が納得しなければ話し合いは難航します。遺産を受け取る家族が納得する形で話し合いを進めるために、以下の手順で相続対策を進めてください。

ステップ1.財産を把握・整理し、相続財産の目録を作る

まずは、相続の対象となる財産がいくらあるのかを把握し、必要に応じて財産を整理しましょう。

【財産を把握・整理をしていないと起こり得るトラブル】
相続発生時、どのような財産がいくらあるのか把握できなければ、相続税がかかるのかどうかもわかりません。残された家族(相続人)が相続財産を把握・調査する過程で疲弊してしまい、感情的になって家族同士でもめてしまうことも考えられます。

【対策】
被相続人になる人は、今から自身の財産を記録した財産目録を作っておきましょう。財産のすべてを目録に記載しておけば、いざというときに相続人が慌てずに相続手続きを進められます。

また、マイナスの財産についてはできる限り解消しておく、使用口座は一つにまとめるなどして、把握した財産を整理しておくことも大切です。なお、財産目録の形式は裁判所のウェブサイトにExcelのひな形が掲載されているため、参考にしてみてください。
裁判所「家庭裁判所で使う書式財産」
┗「相続財産目録」のExcelを参照

【監修者コメント】

財産目録は、現時点での相続財産の中身を記載するものです。例えば、預貯金、有価証券や債券、不動産、負債、保険などです。
相続が発生した時、相続財産がどのくらいあるのか調べるのが大変なので、財産目録でなくても、エンディングノートなどに、内容を記載しておくだけで相続人の負担を減らすことができます。

ステップ2.法定相続人を確認し、自身の考えを整理する

被相続人となる人は、「自身の財産を誰に、どのような配分で渡したいのか」考えを整理しておきましょう。

【自身の考えを整理しておかないと起こり得るトラブル】
通常、被相続人の財産を相続する人や受け取れる割合は、民法で定められています。たとえば財産を持つ父親が亡くなった場合、民法で定められている配偶者と子どもが財産を受け取る相続人になります。

もしも「財産の一部を寄付したい団体がいる」など、民法の定めとは違う形で相続の希望がある場合には、父親は遺言書でその旨を指定しておかなければなりません。

希望があるのに遺言書を作成していなければ、遺産分割協議の際に「父親はこう言っていたのに」と、話が混線してトラブルになる可能性があります。

【対策】
自身が亡くなると法定相続人は誰になり、どのような割合で受け取ることになるのかを確認してください。そのうえで自分は誰にどう財産を遺したいのか、考えを整理してまとめておきましょう。考えがまとまらないうちに、財産のことを相続人に話すのはトラブルの元なので注意が必要です。

ステップ3.遺言書は家族と話し合ったうえで作成する

遺言書は、家族と話し合ったうえで作成しましょう。

【話し合わないと起こり得るトラブル】
被相続人が遺言書を作成している場合、遺言書は民法の定め(法定相続)よりも優先されます。しかし、遺された家族が遺言書の内容や存在をまったく知らなければ、相続が発生した際に「聞いていない」とトラブルになる可能性があります。

また、一定の相続人には一定割合の財産を受け取れる「遺留分」という権利があり、その権利は遺言書を持ってしても奪えません

【対策】
財産に関する自身の希望と家族の権利をすりあわせておくためにも、遺言書作成の際は家族としっかり話し合うことが大切です。

ただ、家族だけの話し合いだと冷静さを失い、お互い感情的になることもあるでしょう。話し合いの際は弁護士や司法書士などの専門家に入ってもらい、法的な問題を解決しながら、お互いの希望をすりあわせていきましょう

家族の負担やトラブルを考慮して、相続手続きを任せる専門家を遺言書で指定しておく方法もあります。

相続税の負担を防ぐ相続対策 3つのポイント

相続について家族との合意形成をはかれたら、次は相続税の負担を抑える方法を考えましょう。相続税対策のポイントは、以下の3つです。

ポイント1.二次相続まで見越して対策を考える

相続税の対策を行うときは、二次相続までふまえて対策を考えましょう。二次相続とは、一次相続で相続人となった配偶者が亡くなって子どもに相続されることを指します。

たとえば、最初の相続で被相続人の父親から、母親と子どもに一定の財産が相続されたとします。ところが、その3年後に母親が亡くなってしまいました。このとき、母親の財産を子どもに相続させる「二次相続」が発生します。二次相続では配偶者控除の非課税枠が使えないうえ、法定相続人は少なくなるため、相続人である子どもの相続税負担が大きくなってしまうのです

こうした二次相続の負担を抑えるためには、早い段階で両親の財産を生前贈与しておくことが大切です。

ポイント2.生前贈与をうまく活用しよう

二次相続の問題もふまえて相続税の負担を抑える方法として、両親の財産を早めに子どもに移動させておく生前贈与が有効です。生前贈与には一定の条件のもと非課税になる制度が複数あるため、積極的に活用しましょう。

使える生前贈与①.年間110万円まで非課税になる暦年課税制度

暦年課税制度(暦年贈与)とは、1月1日から12月31日までの1年間で贈与した額に対する課税方法を指し、1年間に受けた贈与に課税される制度です。

年間110万円以下の贈与であれば、贈与した財産には贈与税はかかりません。相続が始まる前に暦年贈与を使いすべての財産を相続人に移動しておけば、相続税が発生することもないでしょう。ただし、毎年一定額を10年以上贈与するなどの場合、税務署から一括贈与と見なされ、贈与税が発生するおそれがあります。

また2023年の税制改正で、相続開始前贈与の加算期間等の見直しが3年から7年に変更になりましたが、この制度が適用されるのは、来年2024年の1月からです。7年の間に暦年贈与した財産は、相続財産に加算されることになりました。暦年贈与を含めて生前贈与を行う際は、税理士や金融機関などの専門家に相談してください。

贈与税の計算と税率は、以下の国税庁の公式サイトで確認できます。
No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁

使える生前贈与②.教育資金や住宅資金などの一括贈与が非課税になる特例

教育資金や住宅の取得資金など、用途が決まっている資金を非課税で生前贈与できる特例もあります。暦年贈与のように毎年少額で贈与するものではなく、まとまった資金を一括贈与する特例制度で、期限が決まっている点に注意が必要です。

<教育資金の一括贈与特例>

  • 概要:父母や祖父母などの直系尊属から30歳未満の子どもや孫に教育資金を贈与した場合、1,500万円まで非課税になる
  • 注意点:子ども・孫が30歳までに使い切れなければ贈与税の課税対象になる。また、この特例を利用しなくても、本来教育費がかかるたびに都度贈与する行為は非課税となっている。期限:2026年3月31日(税制改正により延長が決定)

<結婚・子育て資金の一括贈与>

  • 概要:父母や祖父母などの直系尊属から18歳以上50歳未満の子どもや孫に結婚・子育て資金を贈与した場合、1,000万円まで非課税になる制度
  • 注意点:子ども・孫が50歳になるまでに使い切れなければ贈与税の課税対象になる。また、結婚に関しての支払いは300万円までとなる
  • 期限:2025年3月31日(税制改正により延長が決定)

<住宅取得資金の贈与>

  • 概要:父母や祖父母などの直系尊属から18歳以上の子どもや孫に住宅新築・購入または増改築資金を贈与した場合、省エネなど高機能住宅は1,000万円まで、それ以外の住宅は500万円まで非課税になる制度
  • 注意点:住宅の種類によって非課税額が異なる
  • 期限:2023年12月31日まで

住宅資金贈与については2023年12月31日までとなっていますが、次の税制改正で延長される可能性もあります。利用する年によって制度概要が異なるため、税理士や金融機関などの専門家に相談したうえで制度を活用しましょう。

ポイント3.生命保険の非課税枠を活用

子どもや孫に非課税で財産を遺す方法として、生命保険の非課税枠を活用する方法もあります。生命保険の保険金は受取人固有の財産であり、遺産分割の対象になりません。そのため法定相続の割合以上の財産を残せる、相続税を支払う際の原資にできるといった利点があります。

  • 概要:生命保険の保険金受取人が相続人である場合、死亡保険金のうち「500万円×法定相続人の数」が非課税になる
  • 注意点:相続を放棄した人や相続権を失った人など、相続人以外の人は対象外

なお、相続対策として生命保険に加入する際は、保険期間が一生涯続く終身保険を活用することをおすすめします。80歳まで・90歳までなど保険期間が決まっている生命保険だと、被相続人が長生きした際の相続に対処できません。

スムーズな相続手続きのために利用できるサービス

相続が始まると、相続財産や相続人の調査、遺産をどう分割するのか話し合う遺産分割協議に加えて、期限内に相続税を申告・納税するなど、種々の手続きが必要です。こうした相続手続きの負担を軽減するためのサービスもあるため、状況に応じて利用を検討してみてはいかがでしょうか。

たとえば金融機関では、以下のようなサービスを用意しています。

遺言信託【生前から利用できる】
金融機関が遺言書の作成と保管サポートを行い、被相続人が亡くなった際には遺言執行者として遺言書の内容を実行するサービスです。身近な金融機関で長期にわたりサポートを受けたい人に適しています。

民事信託【生前から利用できる】
被相続人が生前のうちから、信頼できる親族などに財産管理を託せるサービスです。被相続人となる人が加齢や認知症などで判断力が低下したときに備えて、元気なうちに信頼できる人を財産管理人に指定できます。生前の財産管理や遺産相続の分割を詳細に決めておくことが可能です。

遺産整理サポート【相続開始後に利用できる】
相続発生時、遺産の調査や財産目録の作成などを相続人の代わりに行うサービスです。

また、これらのサービスは金融機関によっても提供内容が異なるため、最寄りの金融機関で内容を聞いてみるといいでしょう。七十七銀行でも、こうした相続手続きサポートを提供しているため、気になる方はぜひお声がけください。

七十七銀行:「遺産整理業務」

まとめ

相続対策において重要なのは、いざ相続が発生してから家族でもめてしまうような相続にしないということです。残された家族が期限内に相続手続きを進めるためにも、被相続人となる人は生前から自身の財産を把握して整理しておきましょう。そのうえで、どのように財産を遺したいのか自身の考えをまとめておき、家族と話し合うことが大切です。

家族との話し合いができたら、相続税対策を考えましょう。相続税対策では、二次相続の発生もふまえたうえで、できる限り早く財産を相続人に移転する生前贈与が有効です。

ただ、家族間でこれらの対策を進めると感情的になってしまったり、知識がないためうまく対策できていなかったりという可能性もあります。相続対策を行う際は、弁護士や税理士、金融機関などの専門家にサポートを依頼し、家族全員が幸せになれる相続を目指しましょう。

【監修者コメント】

自分に万一のことがあった時に、家族など残された人が困らないようにするために、遺言書やエンディングノートがあります。エンディングノートには法的効力はありませんが、気軽に作成できます。財産の中身が分からないということにならないように、どこかに記載しておくことは大事だと思われます。

※この記事は2023年4月現在の情報を基に作成しています。
今後変更されることもありますので、ご留意ください。

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