親が高齢になるに連れ、親の介護費用をどうするべきかという問題が気になるものです。
家族の中で「誰が親の介護をするのか」「そもそも介護費用はいくらかかり、その費用は誰が負担するのか」など、今は元気な親の介護についてお金の問題もふまえて話すのは、家族間でも切り出しにくいことではないでしょうか。
そこで本記事では、親の介護費用について家族で話し合うために大切なポイントを紹介します。万が一発生した際の介護費用の負担を極力抑える方法も解説していきますので、家族で介護について備えるために参考にしてください。
目次
生命保険文化センターの調査によると、月々の介護費用の平均は8.3万円です。ただし、要介護度や介護を行う場所によって個々にかかる費用は変わってきます。
出典:公益財団法人 生命保険文化センター「リスクに備えるための生活設計」 「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」
公益財団法人生命保険文化センターの調査によると、介護に適した住宅改造や介護用ベッドの購入など「一時的にかかる介護費用」の平均は74万円です。一方で、介護サービスの利用料や介護用品購入費など「毎月かかる介護費用」の平均は8.3万円。介護期間の平均は61.1か月で約5年でした。
ただし、上記の金額や期間はあくまで平均値です。実際には全体のうち3割の人に毎月10万円以上の介護費用がかかっています。要介護度や介護を行う場所によってもかかる費用は大きく変わってくるため、費用面の詳細は以降でより詳しく見ていきましょう。
要介護度とは、公的介護保険制度で用いられている「介護の必要度合い」を示す基準です。
公的介護保険を利用する際は、要介護者の状態から要支援・要介護認定を受けたうえで、利用できる公的介護保険サービスが決まります。ここでは、常時介護を要する状態である「要介護」度別にかかる介護費用の平均を紹介します。
要介護度 <>内は介護度合いの目安 |
一時的にかかった介護費用 | 月々かかった介護費用 |
---|---|---|
要介護1 <立ち上がり、歩行が不安定で一部介助が必要> |
39万円 | 5.3万円 |
要介護2 <立ち上がりや歩行などが自力では困難> |
61万円 | 6.6万円 |
要介護3 <立ち上がりや歩行が自力ではできない。日常生活の全般において介助が必要> |
98万円 | 9.2万円 |
要介護4 <要介護3以上にあらゆる場面で介助が必要。思考力や理解力の低下も著しい> |
48万円 | 9.7万円 |
要介護5 <日常生活全体で全面的な介助が必要。意思の伝達が困難> |
107万円 | 10.6万円 |
平均 | 74万円 | 8.3万円 |
参照:「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」
上記表のとおり、要介護度が上がるほど介護費用の負担が重くなっていることがわかります。もっとも重度な状態である要介護5になると、一時的にかかった費用は107万円、月々かかった費用は10.6万円。平均費用よりも大きな負担が発生しています。
次は、介護を行った場所別の費用平均を見てみましょう。
1万円未満 | 1万円~5万円未満 | 5万円~10万円未満 | 10万円~15万円未満 | 15万円以上 | 不明 | 平均 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
在宅での介護 (56.8%) |
7.2% | 39.9% | 15.6% | 5.5% | 5.8% | 26% | 4.8万円 |
施設での介護 (41.7%) |
0.4% | 11% | 17.8% | 28.8% | 30.7% | 11.4% | 12.2万円 |
全体平均 | 8.3万円 |
参照:「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」
上記の月々にかかる介護費用は平均8.3万円です。しかし、介護を行う場所別に平均費用を見ると、在宅と施設では8万円もの費用差が生じています。
自分や親、親戚の家など在宅で行う場合は月々4.8万円ですが、公的な介護施設や老人ホーム、病院といった施設での介護だと月々の費用は12.2万円です。こうした費用差もあり、やむを得ず在宅介護を選んでいる人もいるのではないでしょうか。
親の介護費用を誰が負担するのかは、各家庭によって考え方はさまざまです。
子どもには子どもの生活があるため、基本的に介護費用は親自身が負担するべきと考えられます。しかし、介護は多くの場合急に始まります。ついこの間まで元気だった親が脳卒中で緊急入院し、その日を境に要介護状態になってしまうという可能性はゼロではありません。
このような状態で急に介護が始まれば、子どもが介護費用を負担することになります。急な経済的な負担を避けるためにも、親が元気なうちから親子で将来の介護について話し合う必要があるのです。
それぞれ、詳しく解説していきましょう。
まずは、親自身がどのような介護を希望しているのか確認しましょう。
介護期をどう過ごしたいのか、どのようなサポートを受けたいのかなど、介護における意向を確認します。ただし、親が「子どもに介護してほしい」と希望したとしても、子どもには子どもの生活があります。子どもの生活状況によっては応じられない可能性もあり、親の意向を100%聞き入れる必要はないでしょう。
また、兄弟姉妹間でも親の介護に対する受け止め方は違うかもしれません。親の意向と子ども・兄弟姉妹間での意向をすりあわせておくためにも、元気なうちから介護についての話し合いを重ねておきましょう。
「親の介護費用が親が払うもの」とはいえ、親自身の経済状況によっては払うことが困難な場合もあるでしょう。介護の発生により子どもが介護費用を負担するケースも考えられるため、親の経済状況や保険加入状況の確認は必須です。
親にお金の話を聞くことに抵抗がある人もいるかもしれませんが、親子の仲がこじれてしまうことを避けるためにも、万が一の際はどうすればいいかを確認しておくことが大切です。
どの程度介護費用を払える資産があるのか、また介護時に使える民間の介護保険などはあるのかを確認しておきましょう。
親の経済状況を確認する際は、あわせて老後の資金管理の希望を確認しておくといいでしょう。
加齢によって認知機能が衰えれば、身体は元気でもお金を払う行為そのものが難しくなります。たとえば、銀行では認知症で判断能力が著しく低下している口座名義人の預金口座を凍結することがあります。口座が凍結されると、名義人本人や家族であっても預金を簡単に引き出せません。
このように、親の加齢に伴って生じる問題は介護だけではないのです。親の介護費用を確認する際、あわせて老後の資金管理についても確認しておけば、介護以外の問題も解決しやすくなります。
高齢期の資金管理には、金融機関の信託サービスや成年後見制度といった選択肢があります。七十七銀行でもシニア向け商品・サービスを提供しているため、参考にしてみてください。
話し合いをした結果「親の意向や経済状況はわかったものの、肝心の介護費用が足りない」ことがわかる可能性もあります。
親の経済状況が厳しく介護費用が足りないときは、本格的な介護が始まる前に親の家計を見直し、収支を改善してもらうしかありません。銀行など親が行きやすい身近な金融機関で相談をして、親自身に毎月の介護費用を捻出できる家計に見直してもらうことが大切です。
金融機関に行けば、家計の見直しに加えて持ち家を担保に資金を作るリバースモーゲージなど、複数の方法を提案してもらえます。リバースモーゲージについては七十七銀行でもサービスを提供しているので、参考にしてみてください。
またリバースモーゲージを検討できる持ち家もなく、経済的な余裕がまったくないという家庭には生活保護という手段もあります。
介護費用そのものを軽減する制度ではありませんが、経済的に困窮している場合に活用できる制度です。生活費を支払うほど親の生活が困窮していて、子どもにも経済的な余裕がないという場合に頼れる社会的なセーフティネットです。
年金生活者・要介護者で身体に障がいがあり働くことができず、かといって公的年金の収入だけでは介護費用を払えない人もいるでしょう。貯蓄も収入のあてもなく、子どもからの支援も受けられない。そのような場合は、親自身が生活保護を受けることで生活を立て直せる可能性があります。
介護費用には、さまざまな負担軽減措置があります。親の介護が始まったときには、以下のようなサービスも活用して親の介護費用の負担を軽減していきましょう。
それぞれ、具体的に解説していきます。
公的介護保険と公的医療保険を利用した合算の自己負担額が高額になったとき、申請によって所定の金額が払い戻される制度です。
高額な医療費負担を軽減する高額療養費制度と違い、1か月ではなく1年間(8月1日~翌年7月31日)の区切りで計算されます。自動的に適用されるわけではなく、払い戻しを受けるための申請が必要です。
所定の自己負担額は、対象者の年齢や所得によって細かく基準が設けられています。たとえば70歳以上の後期高齢者医療制度被保険者で標準報酬月額26万円以下の一般所得者であれば、年間の自己負担額は56万円※です。56万円を超えた金額があれば、申請によって払い戻されます。
公的介護保険で1か月の自己負担額が所定の負担限度額を超えたとき、申請によって負担限度額を超えた金額が払い戻しされる制度です。
負担限度額は対象者の所得によっても変わりますが、市町村民税課税世帯~年収約770万円(課税所得380万円)未満の一般的な所得世帯の場合、月額の負担限度額は4万4,400円※です。
介護施設に入所する人のうち、所得や資産が一定額以下の人の介護費用負担を軽減するサービスです。
通常、所定の施設(介護保険施設や地域密着型介護老人福祉施設など)や短期入所サービスを利用したとき、居住費と食費は原則として自己負担となります。しかし、市町村民税非課税世帯など所得や資産が一定額以下の場合、所得に応じた自己負担限度額を超える食費と居住費については、その差額が公的介護保険によって給付されます。
対象者が生活保護を受給している、もしくは世帯全員が市町村民税非課税であることに加えて、預貯金額にも制限があるため、利用できる人は限られています。
社会福祉法人が運営する施設を利用して公的介護保険サービスを受けたとき、利用者負担額や食費・居住費の一部が軽減される制度です。
軽減を受けられるのは所得や資産が一定額以下の人で、以下の条件をすべて満たす必要があります。
出典:厚生労働省「社会福祉法人等による利用者負担軽減制度について」
上記の条件をすべて満たしたうえで軽減対象者として認定されると、市町村から軽減確認証が交付されます。
公的介護保険制度では、災害・失業など特別な理由によって介護保険利用料が一時的に払えない場合は、申請によって利用料が減免される減免措置があります。
申請した人すべての利用料が減免されるわけではありませんが、地震などの大規模災害、コロナ禍の失業など相応の事情がある人は、一度市町村の窓口に相談してみるといいでしょう。
介護保険には、以下の所得控除制度が用意されているため、税金を軽減できる可能性があります。
いずれも所得控除の一種で、支払った保険料金額に応じて所得税・住民税が軽減される可能性があります。なお社会保険料控除と生命保険料控除は年末調整で手続き可能ですが、医療費控除は年末調整できず、確定申告が必要です。
介護を必要とする人が公的介護保険制度を利用せず、在宅で家族が介護を行う家庭に現金が支給される制度です。
「家族以外から介護を受けたくない」「施設での介護を受けたくない」という希望があり、公的介護保険サービスを利用せず家庭内で介護を受けている人が対象です。ただし、自治体によって対象者の範囲や支給金額、慰労金の有無が異なります。詳細は、自治体に問合せてみてください。
多くの場合、親の介護は急に発生します。親が元気なうちから将来の介護を見据えて話し合うようにしておけば、いざ介護が始まったときにスムーズに介護を進められるのではないでしょうか。
親に幸せな老後を過ごしてもらうためにも、介護の希望や経済状況・保険加入状況を確認しておくことが大切です。老後の資産管理はどうするのか、介護費用が足りないときはどう資金を捻出するのか、大切なことなのでしっかり話し合っておきましょう。
なお、高齢期の資産管理や介護費用が足りないときの家計の見直しについては、銀行など身近な金融機関でさまざまなサービスを提供しています。七十七銀行でも、シニア向けに以下のサービスを提供しています。金融機関という第三者が間に入ることで、具体的な話をしやすくなる人もいるでしょう。この機会に、親子で将来の介護費用についてご相談に来られてみてはいかがでしょうか。
【七十七銀行 関連ページ】
【参考サイト】
※この記事は2022年12月現在の情報を基に作成しています。
今後変更されることもありますので、ご留意ください。