老後資産老後破産とは?破産したらどうなる?起こしやすい人の特徴と対策

年齢を重ねるにつれ、老後の生活に対して不安を覚える人もいるでしょう。老後に貯蓄が底をつきる「老後破産」に陥る世帯も少なくありません。

本記事では、老後破産とはなにか、破産するとどうなるのかについて解説します。老後破産する主な原因や老後破産を起こしやすい人の特徴、老後破産の対処法についても紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

ファイナンシャルプランナー 宮里 恵(M・Mプランニング 代表)

ファイナンシャルプランナー 宮里 恵
M・Mプランニング 代表

保育士、営業事務の仕事を経て、ファイナンシャルプランナーに。
独身、子育て世代から定年後の方までお金に関する相談を受けて、16年目になります。
主婦FPとして、等身大の目線でのアドバイスが好評です。
家計・保険・老後、教育資金などの個別相談を主に、マネーセミナーも定期的に行っているほか、お金の専門家として、テレビ取材なども受けています。
人生100年時代の今、将来のための自助努力、今からできることを一緒に考えていきましょう。

老後破産とは?老後破産の割合

老後破産とは、定年後に収入以上の支出が続いて日々の生活が困難になってしまう状態です。貯蓄が底をつくなどして家計が維持できない状況に陥り、自己破産するケースが該当します。

日本弁護士連合会消費者問題対策委員会の調査によると、60歳代と70歳代以上における破産債務者の割合の推移は以下のとおりです。

【全年代の合計を100%としたときの破産の割合】

年代 2020年調査 2017年調査 2014年調査 2011年調査 2008年調査
60歳代 16.37% 16.40% 18.71% 17.50% 12.54%
70歳代以上 9.35% 7.51% 8.63% 5.02% 3.93%

出典:日本弁護士連合会消費者問題対策委員会「2020年破産事件及び個人再生事件記録調査」

2020年の調査における破産債務者の割合は60歳代で16.37%、70歳代以上で9.35%です。合計すると25.72%と全体の約4分の1を占めます。

また、2008年の調査と2020年の調査を比較すると、70歳代破産債務者の割合は約2.4倍に増加しています。つまり、老後破産は珍しいことではなく、誰にでも起こりうる可能性があるのです。

老後破産するとどうなるのか

収入以上の支出が続くことで貯蓄がなくなり老後破産の状態になった場合、どうなるのでしょうか。多くの場合では、子どもや親族に支援してもらうか生活保護を受けるかになります。

生活保護を受ける場合、生活が破綻したからと言って、すぐに受給が認められるわけではありません。資産の売却資金などを活用しても生活が難しいと認められた場合、生活保護を受給できます。

つまり、生活保護を受けるためには、預貯金以外にも持ち家※1や自動車※2などの資産を原則売却する必要があります。

長年暮らしてきた愛着のある家や愛車、装飾品など価値のあるものはすべて手放すことになります。

※1・・・生活保護法では「処分価値が利用価値に比して著しく大きいと認められるものは、この限りでない。」としており、売却よりも賃貸のほうが費用がかかる場合はかならずしも売却せずに済むケースもあります。
出典:厚生労働省「生活保護法による保護の実施要領について(◆昭和38年04月01日社発第246号)」

※2・・・事業用品としての自動車、「公共交通機関の利用が著しく困難」な場合の通勤や通院・通所・通学用自動車、 就労を中断している場合の自動車保有、保育園等の送迎のための通勤用自動車の保有。これらのケースでは保有が認められるケースがあります。
出典:生活保護問題対策全国会議「自動車を持ちながら 生活保護を利用するために!」

生活保護の費用

生活保護は自治体の福祉事務所に相談して、手続きをおこないます。支給される保護費は、年齢や世帯の人数等によって定められた最低生活費から年金等の収入を差し引いた金額です。

最低生活費となる生活扶助基準額(食費や被服費・水道光熱費など)の金額の例は以下のとおりです。

【生活扶助基準額の例 (令和5年10月1日現在)】
  東京都区部等 地方郡部等
高齢者単身世帯(68歳) 月7万7,980円 月6万8,450円
高齢者夫婦世帯(68歳・65歳) 月12万2,460円 月10万8,720円

出典:厚生労働省「『生活保護制度』に関するQ&A」

なお、上記の生活扶助基準額に加えて、必要に応じて住宅扶助や医療扶助などが支給されます。

老後破産する主な原因

では、なぜ老後破産してしまうのでしょうか。ここでは主な原因を7つを紹介します。

現役時代に比べて収入が少ないのに生活レベルが変わらない

年金受給額は現役時代の年収より少なくなります。これまでの生活レベルを変えられないと毎月の収支が赤字となってしまう可能性があり、赤字が続けばいずれ老後破産してしまうでしょう。

厚生年金と国民年金の平均年金受給額は以下のとおりです。

  • 厚生年金受給者の平均年金受給額:月額14万4,982円
  • 国民年金平均受給額:月額5万6,428円

出典:厚生労働省年金局「令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」

ざっくりとでもよいので、老後の生活費を算出してみましょう。年金だけで毎月生活できるのかシミュレーションしてみることが大切です。

【監修者コメント】

FP相談の中でも、年金生活になっても現役世代のように支出をしてしまって、このままでは老後資金が底をつくのも時間の問題という方もいらっしゃいます。外食費や娯楽費などから見直してみましょう。

老後資金が少ない

老後資金が少ない場合、大きな出費があった場合に貯蓄がつきてしまい、老後破産してしまう可能性があります。

令和5年の60歳代、70歳代の貯蓄額の平均値・中央値は以下のとおりです。なお、貯蓄には預貯金以外に株式や投資信託、個人年金保険、積立型保険商品などを含みます。

  平均値 中央値
60歳代単身世帯 1,468万円 210万円
60歳代二人以上世帯 2,026万円 700万円
70歳代単身世帯 1,529万円 500万円
70歳代二人以上世帯 1,757万円 700万円

出典:金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」(令和5年)

中央値は老後の資産として十分な金額とは言いづらく、老後破産のリスクが多くの世帯にあることがわかります。

住宅ローンの返済が残っている

定年後も住宅ローンの返済が続く場合、ローンの返済金額を支払うことができなくなり老後破産に陥るケースがあります。

住宅ローンを組む際には、できるだけ現役時代に返済を完了する返済計画を立てるなど工夫してみてください。すでに住宅ローンを組んでいる場合は、何歳までいくら支払う必要があるのかを改めて確認しましょう。

老後も高額な住宅ローンの返済が続くようであれば、老後破産の可能性は高くなってしまいます。繰り上げ返済で毎月の返済額を減らすか、資産価値のある内に売却をしてしまうなど何かしらの対策が必要です。

退職金の運用で損失を出す

退職金制度のある組織で働いている人は、定年を迎えた際に退職金をもらえます。この退職金を使って資産運用をおこなう人も少なくありません。

しかし、資産運用の知見がない人が、いきなり高リスクの投資商品を運用することで損失を抱えてしまい、老後破産するケースもあります。

退職金を資産運用する際には、年齢などを踏まえて適正なリスク内での運用を心がけることが大切です。知見がない場合は、銀行やファイナンシャルプランナーなどに相談するなど、退職金の使い方について勉強するとよいでしょう。

医療費や介護費の負担が増加する

これまで健康で病気がなかった人も、高齢により病院にかかることが増え、医療費や介護費が増加して老後破産することがあります。特に、介護施設や老人ホームに入居するには高額な資金が必要です。

老後は、病気などでまとまった資金が突然必要となる可能性があることを知っておきましょう。

子どもの教育費の負担が大きい

定年後も子どもが高校や大学に通っている場合、少ない収入のなかから子どもの教育費を支払わなくてはいけません。

特に子どもが私立に通う場合や一人暮らしをする場合、費用がかさむため注意が必要です。

詐欺に遭う

高齢者を狙った詐欺は増加しており、その手法も年々多様化・巧妙化しています。老後のためにしっかりと貯蓄してきたにもかかわらず、犯罪に巻き込まれることで老後破産してしまうケースもあります。

判断に迷ったり少しでも怪しいと思ったら、まずは家族や警察(#9110)に相談することを心がけましょう。

老後破産を起こしやすい人の4つの特徴

老後破産を起こしやすい人には、どのような特徴があるのでしょうか。老後破産を起こしやすい人の特徴を4つ紹介します。

1.支出を管理できていない

老後破産を起こしやすい人の特徴1つ目は、支出を管理できていないことです。

支出が管理できずに、気付かないうちにお金がなくなって老後破産することがあります。65歳代以上無職世帯の平均消費支出とその内訳は以下のとおりです。

  65歳以上夫婦のみ無職世帯 65歳以上単身無職世帯
消費支出額 月23万6696円 月14万3139円
食料 28.6% 26.2%
住居 6.6% 8.9%
光熱・水道 9.6% 10.3%
家具・家事用品 4.4% 4.2%
被服及び履物 2.1% 2.2%
保健医療 6.6% 5.7%
交通・通信 12.2% 10.2%
教養娯楽 9.0% 10.1%
その他の消費支出(うち交際費) 20.9%(9.6%) 22.3%(12.5%)

出典:統計局「家計調査報告【家計収支編】」

ぜひ、家計簿などで支出を確認し、平均とどれくらい乖離しているのかを確認しておきましょう。

2.固定費が高額である

老後破産を起こしやすい人の特徴2つ目は、住宅ローン(家賃)や保険料などの固定費が高額であることです。

固定費は毎月発生する費用のため、家計に大きな負担を与えます。例えば月5,000円の固定費を増やしたとしたら年間6万円、10年間で60万円の支出です。

固定費が高額な人は、収入が減ったときに支払いに追われてしまい、老後破産しやすくなってしますいます。

【監修者コメント】

年金生活になっても住宅ローンが残っている場合、やはり負担が大きくなってしまいます。できれば年金生活になる前に返済が終わるように繰り上げ返済等を計画的に考えていきましょう。

3.貯蓄額が少ない

老後破産を起こしやすい人の特徴3つ目は、貯蓄額が少ないことです。

老後に向けての貯蓄が準備不足であると、毎月の赤字や思いがけない出費が重なると老後破産してしまうリスクが高まります。

賃貸に住んでいる場合は、生涯にわたって毎月家賃の支払いが必要です。また、持ち家でも家の修理やリフォームが必要になればまとまったお金が必要になります。

ほかにも思いがけない出費として、孫へのお祝い金、医療費、葬儀関係などがあります。万が一の出費にも対応できるだけの貯蓄を準備しておくことが大切です。

4.老後のシミュレーションができていない

老後破産を起こしやすい人の特徴4つ目は、老後のシミュレーションができていないことです。

老後のシミュレーションができていないと、毎月どれくらいお金が不足するのか、どれくらいあれば余裕をもって過ごせるのかわからないため、十分な老後資金を用意できずに老後破産に陥ります。

老後破産を防ぐための対処法5つ

では、老後破産を防ぐためにはどのような対策が必要なのでしょうか。老後破産の対処法を5つ紹介します。

1.老後に向けて貯蓄する

老後を迎える前に貯蓄しておくことで、老後破産を防げます。自身の年齢や昨今の物価高から「今から貯蓄なんて無理」「毎月の生活だけでいっぱいいっぱい」と貯蓄を諦める人も多いです。

しかし、少しずつでも良いので貯蓄していくことが大切です。

例えば50歳代は一般的に年収が高く、子どもが独立していれば子育て費用がかからなくなるので、貯蓄がしやすい年代でもあります。

また、貯蓄はできるだけ分散しておくことも大切です。銀行にお金を預けるだけではなく、投資信託の積立投資なども視野に入れインフレ対策をしておくこともおすすめです。元本割れのリスクもありますが、一方で定期預金などよりも高い利益を出せる可能性もあります。積立投資は長期で行うほどリスクが減っていくので少額からでもはじめてみてはいかがでしょうか。

【監修者コメント】

老後資金がいくら必要なのかをシミュレーションします。そしていつまでにいくら必要という金額が分かれば、具体的に預貯金で貯められる額なのか、少しリスクもリターンもある資産運用商品に投資するのか考えましょう。

2.家計を見直す

老後破産の対処法2つ目は、家計を見直すことです。

特に固定費は見直すことで大きな効果を得られます。見直しを検討したい固定費の例は以下のとおりです。

  • 携帯料金・通信費
  • 保険料
  • 動画配信サービスなどのサブスク料金

スマートフォンや自宅のWi-Fiなど、通信費の見直しをおこなうことで安くなる可能性があります。自分に合ったプランなのかを確認してみましょう。また、格安スマホを使用すれば月々の通信費を抑えられます。

また、保険はライフステージや年齢によって必要な保障内容が変わります。定期的に見直しをおこなうことで保険料が安くなる可能性があるでしょう。

さらに、動画配信サービスなどのコンテンツサービスを利用している場合、サブスクリプション(サブスク)といって毎月自動的に引かれているサービスがないか確認してみましょう。もしかしたら利用していない、または月に数回しか利用しないのに毎月支払っているサービスがあるかもしれません。不要なサービスを解約することで毎月の固定費を下げられます。

3.健康に気を付ける

老後破産の対処法3つ目は、健康に気を付けることです。

健康に気を付けることで医療費や介護費を抑えられます。日々の生活に運動やウォーキングなどを取り入れて、健康な体でいれることを心がけましょう。

また、定期的に健康診断をおこなうことで、なにか異常が起きた際にすぐに対応することも重要です。

【監修者コメント】

老後は病院にいくことが多くなって、医療費がかかりがちです。健康的な生活をすることで、医療費や介護費用がかかることを防げます。
また、区市町村の後期高齢者健康診査などを使って、定期的に検査をすることも必要です。

4.年金の繰下げ受給を利用する

老後破産の対処法4つ目は、年金の繰下げ受給を利用することです。

年金の繰下げ受給とは、年金の受取時期を65歳よりも遅らせることで年間の年金受給額を増やせる制度です。老後の年間収入が増えることになるため老後破産の対策になります。

最長75歳まで受取を遅らせることができ、受給開始年齢別にみた年間受給額の増額率は以下のとおりです。

受給開始年齢 受給額増額率(65歳受給開始時対比)
66歳 +8.4%
67歳 +16.8%
68歳 +25.2%
69歳 +33.6%
70歳 +42.0%
71歳 +50.4%
72歳 +58.8%
73歳 +67.2%
74歳 +75.6%
75歳 +84.0%

*1952年4月1日以前生まれの人(または2017年3月31日以前に老齢基礎(厚生)年金を受け取る権利が発生している方)は、繰下げの上限年齢が70歳となる
出典:日本年金機構「年金の繰下げ受給」

定年後も働く、自営業で長く働くという予定の人は、年金受給開始時期を遅らせて年間の受給額を増やすことを検討してみてください。

5.リースバック・リバースモーゲージを利用する

老後破産の対処法5つ目は、リースバック・リバースモーゲージを利用することです。これは持ち家がある人に限られた方法です。

リースバックとは、自宅を売却してまとまった資金を得たあと、買主と賃貸契約を結び家賃を支払うことで引き続き自宅に住み続けられるサービスです。

リバースモーゲージとは、自宅を担保にして一括または定期的にお金を借り、死亡後もしくは契約期間終了後に担保に入れた不動産の売却により元本の返済をおこないます。毎月の返済は利息分のみで済むため、少ない負担で老後資金を増やしたい人におすすめです。

自宅がある人は、老後破産をする前にリースバックやリバースモーゲージの利用を検討してみてください。ただしリースバックやリバースモーゲージは自宅を売却したり担保にしたりする方法ですので、デメリットも存在します。家族でしっかりと相談しましょう。

 

まとめ

老後破産を防ぐには、事前の準備が必要です。今から老後をシミュレーションして対策をとっておけば、老後破産する可能性を下げられます。

ぜひ、本記事で紹介した老後破産の対処法の実施を検討してみてはいかがでしょうか。

【監修者コメント】

今後ますます少子高齢化社会になる背景から、年金だけでは生活できないと思っている方は多いです。
少しでも早い段階で老後資金を計画的に備えることが大事になってきます。そうすることで、老後破産を防ぐことができます。

※この記事は2024年5月現在の情報を基に作成しています。
今後変更されることもありますので、ご留意ください。

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