ローンマイナス金利解除で私たちの生活はどうなる?家計への影響を解説

2024年3月に日銀はマイナス金利を解除し、17年ぶりの利上げに踏み切りました。マイナス金利解除に伴い、これまで以上に上手に運用商品やローンを活用する必要があるでしょう。

本記事では、マイナス金利が導入された背景や効果、私たちの生活はどうなるのかといった影響についても解説しています。

金子賢司

【執筆・監修】
金子賢司

CFP資格所有(FP1級と同等)
東証一部上場企業(現在は東証スタンダード市場)で10年間サラリーマンを務める中、金融に興味を持ち、資産運用やローンなどの勉強を始める。
その後、生命保険会社、損害保険会社での勤務を経て、ファイナンシャルプランナーとして独立。現在は、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信しています。

マイナス金利が解除、17年ぶりに利上げへ

2024年3月の金融政策決定会合で、日銀はマイナス金利の解除を決めました。長く低金利が続いていた日本において、17年ぶりの利上げとなります。

2023年4月、日銀の第32代総裁に就任した植田和男氏は、マイナス金利解除を決めた理由として「賃金と物価の好循環の強まりが確認されてきている」と述べています

新型コロナウイルス禍以降、雇用が回復し人手不足による人件費が高騰。さらに円安による輸入品価格の上昇や、世界情勢の混乱によるエネルギー価格高騰で、生鮮食品を除いた消費者物価指数が41年ぶりの水準となるなど、マイナス金利解除に踏み切る下地は整いつつあったと言えるでしょう。

マイナス金利が導入された背景と効果

マイナス金利がなぜ導入され、結果的に何をもたらしたのでしょうか?導入の背景や効果について解説します。

マイナス金利導入のきっかけとなった日本の不況

1985年、当時貿易赤字の問題を抱えていたアメリカは、過度なドル高是正を解消するために日本を含む先進5か国に呼びかけ、プラザ合意を発表しました。これを機に日本では円高が進み、輸出が減少したことから、景気の低迷期に入ります。

日銀は景気の低迷の打開策として、金融緩和政策をおこないました。この金融緩和政策により公定歩合(当時の代表的な政策金利)を下げ、お金を借りやすくなった企業は、積極的に事業に投資をして景気が回復していきます。

また低金利でお金を借りれることや、景気回復で余剰資金が生まれたことを背景に、企業や個人は投資目的で積極的に不動産や株式を購入し、価格はどんどん上昇していきました。

やがて株式や不動産の価格は実態とかけ離れたものになってしまい、景気の過熱感を抑えるために日銀は1989年より金融引き締めを実施します。しかし金融引き締めにより株式や不動産取引が停滞し、価格が暴落しました。

資産価格が実態の価値以上に膨らんでいる経済状態は、「バブル経済」と言われ、日銀の金融引き締めを機にバブル経済は崩壊、以降、日本は長期の不況・デフレ局面に入ります。

不況・デフレ脱却に向けてマイナス金利導入へ

マイナス金利導入のきっかけとなったのは、2012年12月の総選挙で圧勝した安倍晋三政権の誕生でした。自民党は不況・デフレ脱却のために「大胆な金融政策」「機動的な財政出動」「民間投資を呼び起こす成長戦略」、いわゆる「3本の矢」を掲げ、「大胆な金融政策」が翌年より実行されることになります。

2013年4月に黒田東彦(くろだはるひこ)氏が日銀総裁に就任。「世の中に流すお金の量を2倍にし、物価上昇率2%を目指す」と宣言しました。

しかし国債の買い入れなどで世の中にお金を流したものの、結果が出ず目標の2%には届きませんでした。そこで日銀は、2016年1月の金融政策決定会合で、政策金利をゼロよりも低くする「マイナス金利」の導入を決定します。

日本におけるマイナス金利とは、民間金融機関が日銀の当座預金に預けるときの預金金利をマイナスにすることです。

つまり、日銀に余分なお金を預けておくと、民間金融機関は金利を支払わなくてはなりません。そのため民間金融機関のお金は、投資や融資などで世の中に回り、景気回復・物価上昇に繋がると考えられていたのです。

マイナス金利の効果は?

マイナス金利導入により、住宅ローンの金利が低下し、住宅を購入しやすくなった、円安になり、輸出業の収益が改善し株高になったなどのよい効果もありました。

しかし一方で、預金金利の低下や、民間金融機関の収益悪化などの副作用も引き起こしました。

バブル崩壊後、日本は低金利が続きましたが、長期間続いたために資金需要は低下。景気の回復も限定的で、従業員の賃金も上がらず消費が縮小し、物価も上昇しないという悪循環が生じていました。

1987年~2022年の35年間で、日本の物価は約2割上昇しています。したがって日銀の金融緩和政策は効果がなかったわけではありません。ただし日本以外のG7は同期比で2~2.5倍に増加していることを考えると、マイナス金利の効果については意見が分かれるところでしょう。

マイナス金利解除でどうなる?考えられる影響

マイナス金利解除により、さまざまな影響が考えられますが、私たちの生活に関わるものとして考えられるのは以下の通りです。

  • 預金金利が上がる
  • 生命保険料が安くなる可能性がある
  • 住宅ローンをはじめとしたローンの金利が上がる

マイナス金利が解除されると、普通預金や定期預金の金利が上がる可能性があります。また長期金利上昇により、予定利率が上がるため主に積立型の保険料が安くなるかも知れません。これらはいわゆるマイナス金利解除のメリットだと言えるでしょう。

一方で住宅ローン金利をはじめとするローンの金利が上昇する可能性があるため、これらの金融商品を利用しようとしている人、あるいは利用中の人はマイナス金利解除の影響を十分理解しておかなければなりません。

預金金利が上がる

マイナス金利が解除になれば、預金金利が上がります。

主に、普通預金や1年未満の定期預金は政策金利の影響を受け、1年を超える定期預金金利は長期金利(10年物国債金利)の影響を受ける仕組みです。

預金金利は市場金利と預かり期間をもとに、各金融機関が設定することから、早い金融機関ではマイナス金利解除の発表後、すでに普通預金金利を引き上げています。

また海外の中央銀行の政策金利の影響も受けます。一般的に景気回復期待やインフレ期待が高まると、長期金利が上昇する傾向があります。したがって定期預金金利の上昇も、今後広がっていく可能性が高いでしょう。

生命保険料が安くなる可能性がある

マイナス金利解除になると、生命保険料が安くなる可能性があります。

なぜマイナス金利解除になると生命保険料が安くなるのか、仕組みを見ていきましょう。

まず生命保険料は「予定死亡率」「予定事業費率」「予定利率」で決まります。各項目が保険料に及ぼす影響は以下の通りです。

【予定死亡率】

保険会社は過去の統計から年齢や性別ごとの死亡率がまとめられた「標準生命表」をもとに予定死亡率を参考に、後述する予定事業費率、予定利率を考慮して保険料を計算します。予定死亡率が低ければ保険料は安く、予定死亡率が高くなれば保険料は上昇する傾向があります。

【予定事業費率】

保険の締結や維持管理、保険料の収納など事業運営に必要な経費のことです。予定事業費率が増えれば保険料が高くなり、予定事業費率が減少すれば保険料が安くなります。

【予定利率】

予定利率は、金融庁が国債利回りなど参考にして決める「標準利率」をもとに各保険会社が決めます。一般的に国債の利回りが上昇し、標準利率が上昇すると予定利率が上昇します。また国債の利回りが低下し、標準利率が下がると予定利率が低下します。

保険会社は契約者から預かった保険料を、将来の支払いのために、ただ積み立てているだけではなく、契約者に少しでも有利になるように運用しています。この将来の支払いのために準備しているお金のことを責任準備金と言います。保険会社は契約時に、どのくらいで責任準備金を運用できるのかを予定利率という形で約束し、その分保険料に反映させているのです。

したがってマイナス金利の解除により長期金利が上昇すると、国債の運用益が増える可能性が高まることから予定利率が上昇し、保険料は安くなります。一方、長期金利が低下すると、国債の運用益が低下する可能性が高くことから予定利率が低下し、保険料は上昇します。

ただし解約するときに戻ってくるお金がない掛け捨ての保険は、準備すべき責任準備金が少ないため、影響は少ない傾向があります。予定利率の変動で保険料に影響を受けるのは、主に積立型の保険です。

住宅ローンをはじめとしたローンの金利が上がる

住宅ローンをはじめとしたローンの金利は大きく「変動金利」と「固定金利」に分けられます。

このうち固定金利は長期金利上昇すれば金利が上がり、長期金利が低下すれば金利が下がる仕組みです。したがってマイナス金利解除になると、長期金利が上昇するため固定金利の住宅ローンの金利が上がります。

仮に30年間、全期間固定金利で3,000万円の住宅ローンを利用した場合、金利1.8%と1.7%で比較をすると約53万円の違いがあります。

  毎月返済額 総返済額
金利1.8% 10万7,909円 約3,884万円
金利1.7% 10万6,439円 約3,831万円
差額 1,470円 約53万円

日本では、ほとんど金利が変動しないと考えられていました。そのため、約7割が返済期間中に金利が変動する代わりに固定金利よりも金利が低い変動金利を選んでいます。

変動金利は長期金利ではなく、銀行が企業に貸し出すときの最優遇金利である「短期プライムレート」に連動する傾向があります。

短期プライムレートは2009年1月13日以降、一度も変わっていません。マイナス金利が解除されたからといって、すぐに変動金利の住宅ローンに影響はないと考えられますが、今後は注視していく必要があるでしょう。

なお固定金利期間選択型の住宅ローンの場合、固定金利部分の金利は、長期金利の影響を受けます。

マイナス金利解除で心がけること

日本は41年ぶりの水準となるインフレ(物価上昇)局面を迎えています。さらにマイナス金利が解除され、預金金利やローン金利が上昇するなど、「金利がある」世界を迎えようとしています。

金融リテラシーを高め投資を視野に入れる

インフレ局面では、資産の大半を普通預金や保険など利回りが低い金融商品で運用していると、資産価値が目減りしてしまいます。そのため投資信託など、投資商品による資産運用を取り入れる必要があるかも知れません。

ただし資産運用をするためには、多くの金融商品のなかから自分に合ったものを選べる程の、商品知識を身に付けなければなりません。経済ニュースや世界情勢に関する勉強も必要になってくるでしょう。

住宅ローンの動向を注視する

これまで日本は低金利が続いていたため、今後も金利が上がる可能性は低いと思って変動金利を選んでいた方もいるのではないでしょうか。

しかし今後は、政策金利が上昇する可能性が以前よりも高まっています。これから住宅ローンを利用する予定の方、借り換え予定の方いずれも、固定金利か変動金利かといった金利選びも、より慎重に検討する必要があるでしょう。

このように、マイナス金利が解除されたことで、金融商品や金利などお金に関する知識、いわゆる金融リテラシーを向上させる必要性が高まっています。

まとめ

2024年3月の金融政策決定会合で、日銀はマイナス金利解除を決めました。マイナス金利解除に伴い、預金金利が上がる、生命保険料の保険料が安くなる、住宅ローンの金利が上がるといった影響が考えられます。

日本で、金利が上がるのは17年ぶりのことです。これまで利上げを経験したことがない人もいるかも知れません。

利上げ局面では、将来的な金利上昇も考慮して運用商品やローン選びをする必要性が生じます。より個々の金融リテラシーが求められる時代に入ったと言えるのではないでしょうか。

金融庁では、最低限身に付けておきたい金融リテラシーとして「家計管理」「生活設計」「金融と経済に関する知識」「外部の知見の適切な活用」を挙げています。一度に全てを身に付けるのは難しいので、まずは家計管理や経済に関する知識を身に付けることからスタートするとよいでしょう。

※この記事は2024年4月現在の情報を基に作成しています。
今後変更されることもありますので、ご留意ください。

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