「もしも、家族が認知症になったら……」
誰もが考えたことのある疑問ではないでしょうか。
実際、日本では急速な高齢化に伴い、認知症患者の数が増えています。家族が認知症になると心配なのは、生活に直結するお金の管理です。
そこで本記事では、家族が認知症になると起こりうる金銭トラブルと、トラブルを防ぐために今できる対策、お金の具体的な管理方法について解説していきます。
目次
厚生労働省の将来推計によると、2025年には約700万人が認知症患者になる可能性があります。
約700万人という数値は、65歳以上の高齢者人口の約20%。つまり、高齢者の約5人に1人は認知症患者になる可能性があります。もしも推計どおり認知症患者が増えていけば、2040年には65歳以上の高齢者のうち約4人に1人が認知症患者となるでしょう。
自分や配偶者の親、独身で年の離れた兄姉など、高齢の家族が認知症になることはもはや他人事ではありません。では、家族が認知症になると何がどう困るのでしょうか。家族の認知症問題でもっとも危惧されるのは、お金のトラブルです。
たとえば、家族が認知症になると多くの場合、金融機関の口座は凍結されます。それにより「親の口座にはお金があるのに口座凍結によって預金を引き出せず、子どもが代わりに親の医療費や介護費の支払いを立て替えなければならない」といったトラブルが発生するかもしれません。このようなトラブルを避けるためにも、家族間で今後のお金管理について話し合い、いざというときの対応を決めておくことが大切です。
認知症とは、認知機能の低下によってさまざまな能力が低下し、日常生活全般に支障が出る状態を指します。認知症が進行すると記憶力・理解力・判断能力が低下するため、生活全般に関わる“お金”を適切に管理することができなくなる可能性があります。
そこで、ここでは家族が認知症になったときに起こりがちなお金のトラブルについて、4つの事例を見ていきましょう。
家族が認知症になると、銀行によって本人名義の預金口座が凍結される可能性があります。凍結されるケースは、主に以下の2つです。
認知症により本人のお金遣いが荒くなったなどの理由で、後々のトラブル防止のため、家族が銀行に告知して口座を凍結してもらうことがあります。
また、認知症の影響で暗証番号を忘れた本人が銀行で手続きしようとした際、銀行側が本人の著しい認知機能の低下を認めて凍結することがあります。
いずれの方法も、口座名義人である認知症患者本人が、詐欺や悪徳商法といったトラブルに巻き込まれないようにするための重要な措置です。
しかし口座が凍結されてしまうと、家族でも口座からの引き出しは難しくなります。本人の代わりに家族が生活費や医療費を立て替えることになれば、家族の家計にも影響が出るでしょう。
認知機能が低下すると物忘れが酷くなるため、大切な通帳や印鑑、カード類などを紛失する可能性が高くなります。また、計算力や計画遂行力も衰えるため、1か月分の生活費を1週間で使い切ってしまう、無駄遣いが増えるといった行動も増えるかもしれません。
手元にあるお金を計画的に使い、管理することができなくなれば、生活そのものが成り立たなくなるでしょう。いずれは、家族が代わりに支払いをするなどの対応が必要です。
理解力や判断力が低下すると、人から説明されたことを理解できず、状況に応じた適切な判断ができなくなります。その結果、巧妙な「オレオレ詐欺」や、言葉巧みな高額商品の購入・契約といった特殊詐欺に遭いやすくなるのです。
悪徳商法や特殊詐欺などのトラブルは、認知症患者の家族が警察や国民生活センターに相談をして対処にあたらなければなりません。本人から状況を聞き出したうえで警察や国民生活センターに詳しく説明をし、時にはその他の機関ともやり取りを行う必要があります。
何かトラブルに巻き込まれるたびにこうしたやり取りを行うのは、通常の生活サポート以上に疲弊してしまう可能性があります。
認知機能の低下によって種々の力が衰えると精神面が不安定になり、その不安が行動にも表れるようになるケースもあります。こうした不安症状は徘徊や幻覚、暴言や暴力に繋がることもあり、中には「お金に対する執着や妄想」といった症状が強く出る人もいます。
よくあるのは、家族や周囲にお金を盗まれたと思い込んでしまうケースです。このとき、家族が本人から財布や通帳を強引に奪ってしまえば、よりいっそう本人は不安感が増し、疑心暗鬼に陥ってしまうでしょう。認知症の症状が酷く進行してから家族が代わりにお金を管理しようとしても、本人は周囲を信用できずに暴力的な態度を取るかもしれません。妄想が強くなってしまうと、管理しようにもできない事態に陥る可能性があり、注意が必要です。
家族が認知症になってしまうと、あらゆる能力が低下することでお金のトラブルが起こりやすくなります。銀行と保険会社では、こうしたリスクに備えて無料でできる事前対策を導入しています。それぞれの対策を見ていきましょう。
銀行によっては、預金口座の名義人が高齢や認知症などで判断能力が低下したときに備えて、あらかじめ指定した代理人が手続きを行えるサービスを用意しています。
基本的なサービス内容は、認知症になった口座名義人の代わりに、あらかじめ口座名義人が登録・指定しておいた代理人が預金の引き出しなどの手続きを行えるようにするものです。口座名義人が元気で判断能力のあるうちに、信頼できる人を代理人に指定できるのがポイントです。
銀行によって制度導入の有無や利用規程は異なりますが、無料という点は共通しています。指定できる代理人は「2親等以内の親族」となっていることが多く、配偶者間、親子間、兄弟姉妹間であれば利用できる可能性があります。事前に登録しておけば、万が一の際に役立つのではないでしょうか。
なお、七十七銀行でも、「代理人事前登録制度」と称して以下の条件で利用できるサービスを導入しています。
各生命保険会社では、被保険者本人に「特別な事情」がある場合、契約者があらかじめ指定した代理人が被保険者に代わって、保険金等を請求できる「指定代理請求制度」を設けています。
指定代理請求制度とは、医療保険やがん保険、個人年金保険といった「保険の対象者である被保険者と受取人が同一の契約」において利用できる無料の制度です。事前に指定代理請求人を登録しておけば、本来の保険金請求者である認知症患者本人に何かあった際に、あらかじめ指定した代理人が本人に代わって保険金・給付金の請求手続きを行えます。
この制度により「せっかく入っている保険があるのに請求できない」事態を防ぐことができるため、加入保険がある人は必ず代理人を指定・登録しておきましょう。
保険会社や商品によって代理人に指定できる人の範囲は異なりますが、一般的には以下の範囲で指定可能です。
上記に加えて、最近は同性パートナーや内縁関係・事実婚のパートナーを代理人として認める保険会社も出てきています。加入保険契約がある人やこれから保険に加入しようと思っている人は、指定代理請求制度の有無や内容を確認しておきましょう。
銀行の預金と保険金・給付金については無料の代理人制度があり、事前対処が可能です。では、その他の有価証券や不動産といった財産、お金周り全般の手続きや契約についてはどうすればいいのでしょうか。
財産が多ければ多いほど管理は大変です。また、たとえ家族でも種々の契約や手続きの代理を自由に行うことはできません。
そこで、ここでは認知症家族のさまざまな財産や手続きなどを有料で管理する方法を4つご紹介します。所有財産が多い場合や、すでに本人の判断能力が著しく低下していて管理が大変な場合には、有料の方法も検討してみてください。
高齢化社会を支えるため、公的介護保険制度と同時に誕生した公的制度が「成年後見制度」です。認知症や高齢で判断能力が低下し、契約や財産管理が難しくなってしまった人を悪徳商法などのトラブルから守り、支援することが目的です。
成年後見制度の主な役割は、判断能力が不十分な人に代わり、後見人となる人が財産の管理や種々の協議・契約などをできるようにするもの。大きく分けて、以下2つの制度があります。
将来、自分の判断能力が不十分となった場合に備えて、認知症になる前に利用する制度です。あらかじめ本人が決めた任意後見人を選んだうえで公正証書を作成し、後見人と委任契約を結ぶことで活用できます。
任意後見制度の報酬は必須ではなく、家族が任意後見人になる場合は無償にすることもあります。家族間でのお金の管理を検討している人は、任意後見制度も選択肢に入れるといいでしょう。
なお、成年後見制度の利用者は2021年12月時点で約24万人ですが、そのうち約99%は「判断能力が不十分になった後」の法定後見制度を利用しています。実際には「判断能力が不十分になる前」の任意後見制度の利用者は1%しかいないのが現状です。
そのため、実際の利用実態や使い勝手については不透明でわかりにくいというデメリットもあります。
すでに認知症などで判断能力が不十分になっている場合に利用する制度です。成年後見制度利用の大半は、この法定後見制度利用です。当制度は家庭裁判所に申立てを行うことで、本人の代わりに契約や手続きを行う成年後見人が選出され、その後見人がさまざまな管理を行います。
法定後見制度の報酬で裁判所が示している目安は、1,000万円以下の財産で月額2万円、1,000万円超だと3~6万円程度です。そのほか、家庭裁判所への申立てにも手数料が必要です。
法定後見制度の後見人は家庭裁判所によって選出されますが、選出されるのは家族以外の第三者であるケースがほとんどです。また、公的制度ゆえに利用時には種々の制約があります。あくまで本人の保護・支援を目的とした制度のため、家族がお金の管理を自由に行えるわけではありません。
七十七銀行では成年後見制度利用者向けの預金商品「後見制度支援預金」を用意しています。成年後見制度は公的制度ゆえに柔軟な使い方ができない面もあるため、こうした民間金融機関の商品と組み合わせて活用するのも一つの方法です。
「日常生活支援事業」は、認知症などで判断能力が低下した人の生活を全面的に支援するための制度です。社会福祉協議会の「生活支援員」が、介護施設やホームヘルパーなど福祉サービスの利用援助から日常生活の消費契約、行政の手続きまで幅広いサポートを行います。
生活支援員にサポートを支援する場合は、各地域の社会福祉協議会が定める利用料を支払う必要があります。厚生労働省によると、生活支援員の訪問1回あたりの平均利用料は1,200円程度です。
お金の管理だけではなく契約の手続きなど生活全般のサポートを第三者に依頼したい場合は、日常生活自立支援事業も検討するといいでしょう。
第三者に任せるよりも「家族内で本人のお金を管理したい」という場合には、家族信託や民事信託という選択肢があります。
家族信託・民事信託とは、財産を持つ人が委託者となり、家族など信頼できる人と信託契約を結ぶことで、お金の管理や活用、処分できる権利を託す手法です。
権利を託された人を受託者、託された財産の利益を受け取る人を受益者と呼び、委託者・受益者を親にして、子どもが委託者として財産管理を行えます。家族間で独自の契約を結べるため、信託財産の管理を無報酬にすることも可能です。
家族信託と民事信託の違いに明確な定義はありません。どちらにしても、弁護士・司法書士などの専門家に相談して家族内で独自の契約を作成したり、金融機関のサポートを受けたりする方法が一般的です。家族内で柔軟な財産管理ができる一方、家族内で誰が委託者になるかで揉める可能性があることは覚えておきましょう。
また家族間の報酬を無償にしたとしても、専門家に契約締結やコンサルティングの依頼をすれば、相応の報酬が必要になります。弁護士や司法書士であれば、数万円~数十万円の費用がかかることもあるでしょう。
金融機関によっては、信託契約について相談できる専門家の紹介や、信託契約の無料相談を行っていることがあります。七十七銀行でも民事信託に基づく預金口座商品の用意や無料相談を実施しているため、気になる人は相談してみるといいでしょう。
「お金の管理は第三者や家族ではなく、金融のプロに任せたい」という場合には、商事信託という手法もあります。
商事信託は信託銀行や信託会社などの金融機関にお金の管理を託す手法です。民事信託とは違い、事業として信託商品を提供するため、受託者になる金融機関は国の認可を受ける必要があります。
金融機関は一定の報酬を得ることと引き換えに、財産管理についてさまざまなサービスを展開しています。そのため、商事信託の内容や利用条件、利用料は金融機関によって違います。
各金融機関が事業として多様なサービスを提供しているため、公的な法定後見制度・日常生活自立支援事業に比べて柔軟な対応を期待できるでしょう。家族間トラブルを避けたい人は、お金のプロである金融機関に管理を託すことも検討してみてはいかがでしょうか。
認知症は、ただ物忘れが増えるだけではありません。記憶力や判断力など種々の能力が低下することで、妄想や幻覚、不安や不眠、徘徊といった不安症状を引き起こし、最悪の場合は家族への暴力や暴言といった行動に発展するおそれもあります。こうした症状はお金のトラブルになる可能性があるため、本人が健康なうちから家族間で話しあい、認知症になった時の備えを考えておくことが大切です。
無料でできる備えには、預金口座の代理人登録と生命保険の指定代理請求人登録があります。両方制度とも無料で利用できるため、万が一に備えて登録しておきましょう。
現在すでに認知症の症状が出ている場合や、預金や保険以外の財産が多くお金の管理が複雑な場合には、以下のとおり有料でお金の管理を行う方法もあります。
「子どもが親のお金を管理できるようにしたい」のであれば、家族に管理を託す家族信託・民事信託をおすすめします。七十七銀行でも民事信託に基づく預金商品があるため、一度相談してみてはいかがでしょうか。
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【参考サイト】
※この記事は2023年2月現在の情報を基に作成しています。
今後変更されることもありますので、ご留意ください。