七十七銀行:金融資料館 The The 77BANK CYBER CURRENCY and BANKING MUSEUM


渋沢栄一の書簡

1876(明治9)年の「国立銀行条例」の改正により、全国的に国立銀行の設立熱が高まりました。第一国立銀行の渋沢栄一(しぶさわえいいち)は、この急激な銀行設立の動きを警戒(けいかい)し、この書簡(しょかん)で、国立銀行の設立を志望する者に対し銀行業の本質や経営の基本的な考え方を論じ、安易(あんい)な銀行設立に忠告を与えています。
当「金融資料館」には、この渋沢栄一の書簡の現物と読み下し文、訳文を展示しています。

渋沢栄一の書簡 1876(明治9)年12月
訳文
華士族禄券(かしぞくろくけん)の制度が公布されて以来、世の中の経済を談じる者は多く国立銀行の創立を志望し、そして我が第一国立銀行がいささかこの事業に試みがあるのをもって、その営業の順序および利害得失の原因を御尋(おたず)ねになること、多く十数人に至(いた)る。私は、その志望がよく施政(しせい)の要旨(ようし)に適合するのを喜び、公私のためにその挙を賛成するであろう。しかしながら、銀行業は通常の商売に比べれば簡単に似(に)て実は難しい。もしその営業が正確になされ事業拡張の実績あるものは、おそらく計画の根本原理と運用の働きとを兼(か)ね合わせなければ決して完全を見ることは出来ない。今ここに才知・学問をもって自らを任ずる者がいるとして、その者はただ全体の計画に詳(くわ)しく努めてその規模が大きくなることをはかり、特にその働きが早く世間において明らかになることを期するため、その者が事に対処し物に接するとなると、常に小利にこだわるのを嫌がり、事業は未だ一つの村にさえ普及しないのに自分の意見が全国の助けとなることを欲し、このため銀行の規則がすぐに整い、表面あるいは絢爛(けんらん)として見ることが出来るようだが、実務の運用においてはやりくりがはなはだ下手(へた)で、常に粗雑となる弊害(へいがい)を免(まぬが)れない。もし、あるいは実際に通じ、やりくりに長じる人がいるとして、その者は細かな金額を争い、巧(たくみ)に財物や通貨を論じ、経費は省(はぶ)き収益に勉め、目の前のそろばん上に賢(かしこ)く、よって手抜かりがないようであるが、おそらくは大体の計画・戦略に乏(とぼ)しく、進むだけで止まるのを知らず、伸びるだけで屈するのを覚(さとら)らず、その甚(はなは)だしい者は条理や法制度をわきまえず、ややもすると営業の方針を誤(あやま)り、常によく小さな利を集めて年の会計に余裕があるようではあっても、時として不測の機会にへまがあるのを免れがたい 。これが、才知・学問の者とやりくりの人とが、相互に一長一短するところであり、よく両方を兼ね備える人に至ってはほとんどまれである。おそらく銀行の営業は他の商売が忙(いそが)しく繁盛(はんじょう)するようなものではない。よろしく先(ま)ず銀行の維持(いじ)が長期に耐えられるだけの実体を作り、 そして後、進み続ける巧みな用(もち)い方を持つべきである。このため、新設の銀行事務に対処するに当っては、始めから事業の拡張を図(はか)らず、努めて高望みの念を押さえて、そしてよく事務に習熟することを努めとしなければならない。みだりに浮(うわ)ついた見解をもって功業の速成(そくせい)を努めるといっても、その実力がこれに当るのに足らないときは、ただ害を見て利を見ることが出来ない。かつその実務に習熟しようとしたら、またよろしく銀行の本業を増進することに勉めなくてはならない。ここにおいて、先ず日常の細事より整え、永久に続くのを頼(たの)むべきである。概(がい)して言えば、銀行の創業を図る者は、先ず全般の得失を大きく計算し、収益の期日・日程を設(もう)け、かつ従事すべき科目を予定し、これをもって順次営業に着手し、毎季の試みを経てその成果を検査し、精粗の功によって進歩の実績を表わし、漸次(ぜんじ)拡張してついに商工業の原資に任じるようになって初めて、資金融通(ゆうづう)の便と物産の利とを助けることが出来る。これが、私が公私のために銀行の創立に喜んで賛成し、忠告を差し上げる理由である。しかしながら、今このちょっとした説明ではよく銀行業の順序を言い尽(つ)くすのに足らないので、別に営業の要点と計算の大要を記載(きさい)し、合わせて御覧に入れたいと思う。そう、これは、ただ私の意見を説明していささか銀行新設者の便を図ろうとしたものなので、もとよりおおかたの者の道具とするには足らない。フランス人にことわざがある。すなわち、パリは一日にしてならず、と。私は、これを銀行の営業に見る。この文を読む者、幸いに私の忠告によって、速成を努めて原理を誤るということがないことを得れば、私のこまごまとした老婆心(ろうばしん)もいささかもって理財の万分の一でも助けとなることを切に望む。
第一国立銀行頭取
渋澤栄一
明治九年十二月


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